言葉にできない
町に帰ったのはお金に困ったからだった
祖母と10年前まで住んでいた
祖母はひとり年金生活を送っている…はずだ
母は酒と男が好きで母親になれなかった女だ
この町のどこかで暮らしているだろう
バス停からほど近く祖母の家がある
私は鍵のかかっていない祖母の家に「ばぁ~ちゃ〜ん』と声をかけながら上がっていった
居間の扉を開けると
色の抜けたヘアカラーでやけに乾燥してパサパサな髪の女が立っていた
母親だった
私は「ばぁ~ちゃんは?」とひと言だけ尋ねた
母親は「久しぶりに会った母親に最初に言うのがそれかい」と面白くなさそうに言った
女は剥げかけたマニキュアの爪をいじりながら
「そこの町の施設」
そのまま無言で踵を返す私の背中に向かって「あんたが誰なのか分からないわよ、ボケちゃって」とため息混じりに古い板張りのローカに言葉を落とした
町の施設は直ぐ近くにあった
自分の簡単な住所と名前を書いて
祖母を呼んで貰った
祖母は車椅子に座って職員に押されてきた
生気の無い顔は右斜め下を向いたままだ
私は「ばぁ~ちゃん」と膝を付いて声をかけた
祖母はバッと私の顔を見て
嬉しそうに「あ〜あ〜」と言っている
「そうだよ、真美だよ」私は祖母の手を包んだ
祖母は「あ〜あ〜」と言うだけで
私だと分かっていないようだった
私は祖母に謝リたかった
だけど涙で言葉にできない
ばぁ~ちゃんは「それは年金の少ない生活費だから困るんだよ、困るんだよ」と懇願するのに
そのお金を持って私は家を出た
それなのに、祖母のこの姿を見るまでは
また金の無心をしようとしていた
クズだ、私は
祖母の膝に突っ伏して泣いている私の頭を祖母が声もなく撫でた、それは暖かくてやさしいあの頃の祖母の手だった
4/11/2026, 1:52:21 PM