渚雅

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その少年は自分を持っていた。



誰よりも強く揺るがない自分自身を彼は持っていた。少なくとも自分にはそう見えた。

陰口悪口仲間はずれ 何を言われても彼は気にもとめない。やりたい事をやって,やりたくないことはせずに自由気ままに過ごす。だからって決して協調性がない訳でもないしフォローも欠かさない。

嫌われることも多いけれど好かれることも多くて,しっかりと筋を通すその在り方はブレることがない。


強いと思った。傷つくことなどないのだと。他人などどうでもいいと切り捨てているのだと そう感じた。

だってそうでなければ,あんな風には生きられない。何にも侵されないほど強かなんだと根拠なくそう思った。

……それは多分 弱い自分の防衛本能みたいなもので。彼は特別だからと盲目的にそう信じ込みたいからだった。



「何でそんなに自由なの?強いの? 一人で怖くないの?」

そう聞いた。彼は数度瞬きを繰り返してそれから小さく笑みを浮かべた。少しだけ不思議そうに,それでも真っ直ぐに言葉を綴る。


『怖いよ一人っきりは。だからこそ自分を見てくれる人を求めるだけで。演じた自分を求められても満たされない』
『それを強さと呼ぶかはわからないけれど,誰も責任を取ってくれないなら後悔したくないだけ』

弱さの裏返しだよ?
愛されたいから 傷ついてもいいだけ。

どっちを選ぶかでしょ? そう笑った彼は強いのではなくて靱やかなのだと 初めて知った。

ずっと真摯な対応。場に染まることではなく向き合う事を求める態度。それが彼の生き方で本質だった。

足掻いてもがいて それでも手を伸ばす。そんな風に生きたことなどない自分とは全く違う覚悟の持ち方。

それが目に痛いほど眩しかった。








テーマ«裏返し»

8/22/2023, 10:27:54 AM