John Doe(短編小説)

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森のロンリー・オールドマン


その老人は深い森の中で一人きりで暮らしていた。家も森の木を材料にして造られており、そこそこ立派な家に住んでいた。

老人は街に出ることはない。生活水は川の水を使い(この川がまたとても澄んだ綺麗な川だ)、電気の代わりに薪で暖をとった。当然、夜は部屋の中は蝋燭の明かりのみになるが、老人はこれらを不便だと思ったことは1908年にこの場所に移り住んで以来、40年間一度もない。老人の孫と妻は戦争で先立ち、もはやこの家にいるのは老人一人だった。

老人は小口径のライフル銃で森の動物を狩っては、それらの肉を余すことなく食べ、日曜日には神に祈りを捧げていたが、とうとう彼は限界が来ていた。

ある時、彼の家に見知らぬ男がやってきた。男は元ナチスの軍人で、高級将校の一人だったという。しかし彼の身なりは浮浪者そのもので、身体からはきつい臭いを放っていた。男は拳銃を老人に向けるなり、「この家を借りるぞ」と言った。老人は彼をもてなした。

というのも、老人は孤独感に心を押し潰されそうになっていたからである。この際、誰とでもいいから、一緒に居たいと思っていた。軍人は川で身体を洗うと、老人に何か食べ物をよこせと要求した。老人は焼いた鴨肉とワインを差し出すと、二人は奇妙なランチタイムを始めた。

腹を満たした軍人は、勝手にソファーに寝転ぶと、ワインの残りを飲んだ。老人は軍人に何か話しかけようとしたがやめた。彼がすぐに眠ってしまったからである。

軍人の左手首にはめられたヒトラーの印が刻まれたクロノグラフの時計を老人は宝石を見るような目でまじまじと見ていた。

それから老人はライフル銃を担ぐと森へと入っていき、その途中でカーキ色の制服を着た連合国軍軍警察の男とばったり出会った。男はドイツ軍人を見なかったかと聞いたので、すかさず老人はその男の眉間を撃った。

森に乾いた銃声が響き渡り、その音を聞いた軍人は飛び起き、一目散に老人の家を飛び出して行ってしまった。

老人はまた一人になった。

10/4/2023, 2:39:02 PM