チロ

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「ママ、きらい!」

目にいっぱいの涙を溜めて、ツトムは言った。
小さなスーパーのお菓子コーナー、買い物客たちは「何事か」とこっちを見ている。

勘弁してくれ。自分の子どもが産まれるまで、私はそちら側にいた。お菓子コーナーでギャンギャン駄々をこねる子どもを見て、「躾のなってない子」だとか「お菓子くらい買ってあげればいいのに」とか…所詮他人事で好き勝手思っていた。

だが子どもが産まれて、成長して、2歳を越えた頃からイヤイヤが始まり、今我が家のツトムは過去に見た「躾のなってない」子どもになっていた。ツトムはついに泣き出し、スーパーの床へ突っ伏した。

なぜ?なぜこんな事になっていると思う?
ツトムが欲しかった、有名なパンのキャラクターのラムネが売り切れだったからだ。

私は目線を合わせるようにしゃがんで、向かい合わせになるようにツトムを立たせようとする。
だが、立たない。まるでタコのように、軟体動物化した2歳児は立たすことすら困難である。

「大人気だから、もうこのキャラクターはないんだって!これもラムネだよ、この機関車の…」
「見て!こっちにはパンのキャラクターのお菓子があるよ!こっちでもいいんじゃない?」

私は買い物客たちの視線を痛いほど受けつつ、最大限に優しく必死でツトムと向き合おうとする。

「やだー!これじゃなきゃやだー!」

肩に置いた手を振り払われ、泣き声の勢いは増す。
泣きたいのは、こっちだわ。無いものはどうやっても買えないよ…

漫画で見るような、床で突っ伏し手足をバタバタなんて…本当にする子が居るんだな。号泣しながら床に寝転ぶ我が子を見て、他人になりたいと思ってしまった。
ここまで勢いが付いてしまえば、もうどうやっても止められない。

怒鳴ったところで聞く耳なんて持ってないし、冷静に話合いもできない。

海老反りになって「イヤイヤ」とうねるツトムをどうにか抱えて、買い物カートをレジの人に頼み、その場を離れた。

「見た?お菓子くらい買ってあげればいいのに」

去り際に届いた声、私は何とも言えない気持ちになった。



ひとしきり泣いたツトムは、ジュースが飲みたいと言い出した。ジュースとパンのキャラクターのお菓子を自分で持ち、レジのお姉さんにご機嫌で手渡した。

「買い物カート、ありがとうございます。騒いですみませんでした」

「全然、大丈夫ですよ〜!お母さん大変ですね、うちの甥っ子も同じ年くらいのとき、大雨の中地面に突っ伏してました!理由聞きます?」
 
あまりに明るく話てくれるから、私はハッとして顔を上げる。美人な金髪の店員さんと向かい合わせになる。目があった瞬間、ニコッと笑いかけてくれる。

「自転車移動だから不可能なんだけど、合羽じゃなくて傘を持ちたかったんです。」




8/25/2023, 1:35:24 PM