そらいろ

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 初めて来た家の電気を勝手につけていた。暗闇の中当たり前のように手を伸ばした先にスイッチがあったのだ。そしてなぜだか懐かしいにおいがした。
「あれ…」
 海馬がぶっ壊れてから数ヶ月。ここがどこだか、分からないけれど何か知っていて、知らないけれど何かわかる気がした。
「きおく、もどった?」
 長年友人だという人の家に初めて来たはずなのに。目の前の人は目をまんまるにして希望を込めてそう言った。
 耳鳴りがする、眩暈がした。
 ビリビリになった記憶の地図が一枚になろうとしている。頭の中がぐちゃぐちゃとうるさい。知らない、初めて来た家なのに。トリガーは電気のスイッチだったなんて、ぼくは、おれは、お前は、そして、あの時は、

 全ての破片が繋がった音が、僕の頭の中に爆風を蹴散らして響き渡った。鼻がツンとした。

/記憶の地図

6/16/2025, 10:41:29 AM