もしもの話
「ねぇ、私たちって驚くほど性質が真逆だよね」
晴れ渡った青空の下。こんな日の昼休みは屋上で過ごすのがうってつけだと、彼女に言われて私はここにいる。
その彼女が急にそんなことを言い出すので、私は飲んでいた緑茶を盛大に咽せた。
「あー、もう何してんの」
「それはこっちの台詞。急にどうしたのさ」
「いや、ふと思っただけ。私は自由奔放で、思ったことを何でも口に出す。対してあなたは真面目で、思ったことはあまり口に出さないよね」
「否定はしない。口にしたとて碌なことにならないからね」
「でも、私の前だと違うよね」
彼女はくすくすと笑う。
否定はしない。事実その通りだ。彼女の前だと、ひた隠しにしていたはずの本音が露わになる。
私は大袈裟にため息を吐いて、彼女を睨む。
「お前のそういうところ、本当に嫌い」
「私は君のそういう棘のある言葉、好きだよ」
「棘のある言葉はそっちがよく使っているじゃない。他の子と喧嘩だってよくしているし、止めるこっちの身にもなってよ」
「まさか。君は私にそれができると思ってる?」
「いいや。少しも。ただの理想論だよ」
勝ち誇ったように笑う彼女に、私はピキッと青筋が立つのを感じた。
こいつの言動に腹が立つ。私の気が短いとかそんなのじゃなくて、こいつの言動が神経を逆撫でしてくる。
深く呼吸をして、私は口を開く。
「たとえばの話」
「ん?」
「もしも、私と君の手元に銃があって、どちらかが死なないといけない時。君は躊躇いなく私の眉間を撃ち抜くことできる?」
ただの心理テストだ。普通なら、撃てるはずがない、そんなことをするくらいなら自分で死ぬ、とかが定石だ。しかし、目の前の彼女は違う。
私とは違う道を歩いてきた彼女だというのに、考え方がとてつもなく似ている私たち。親友、と呼んで良いのかは分からないけど、お互いに本音で言い合うことは出来る。
「もちろん。その時は君の眉間を撃ち抜くよ」
清々しいくらいの笑顔で彼女は答えた。
ああ、なんて素敵な答えだろうかと。私は自然と頬が緩むのを感じる。
「そう。私もその時は君を殺すよ。その時になれば、お互いを切り捨てられる。……どうして、そこだけは似ているのだろうね。私たちは」
「知らなーい。でも、似ていることは悪くないでしょ?だって、理解者になれるってことだもの」
「まあね」
私は緑茶を一口飲む。今の話は例え話、だったけど、仮にもしもだ。別の世界線で、私と君が本気で殺し合うことになって。
私が、君のことを手にかけた時に。君の亡骸を抱きしめて、私は、きっと。
(……泣くんだろうなぁ)
頭の中で物騒なもう一つの物語を描きながら、私は彼女を喪うことに恐怖しているのだと思い知った。
10/29/2023, 12:39:29 PM