地方の製鉄所で、危険な作業のためそれなりの給与を貰いながら、単調な仕事の繰り返しを過ごしていた。
上司に刃向かいもしないし、楯突く事もない。向上心は全く無い為、昇進もしない。
けれどいつしか、昭和生まれの自分も年長者になり後輩も増えていた。
最近分かってきた事がある。
どうも、今の子はアニメの声優やYouTube、アイドルなどに「推し」がいるらしい。
「推し」?とは。なかなか身体に染み込んではこない。
分からないが、休憩中にきゃっきゃっと話しをする彼らを見ていると、羨ましくもあった。
そんな矢先に、父親が死んだ。
母は3年前に他界しており、子は俺しかおらず、急遽全ての手続きを自分がしなければならなくなった。
悲しみは感じなかった。
昭和の父親は基本的に碌でも無い。清清したが、後片付けをしなければならない事で、恨みはつのった。
へとへとになりながら、ひとり暮らしのアパートへ戻る。
大声で罵りたかった。叫びたかった。誰かに助けて欲しかった。
暗闇の中、脱力しながらスマホで動画検索し、適当に指をなぞる。
THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの世界の終わりが流れ、若いチバさんが揺れていた。
…何度も、何度もリピートする。いつしか無意識に涙が流れていた。
射るようにカメラを見るチバユウスケから目が離せなくなっていた。
思い出す。「推し」とはこういう感情だろうか。
題:不完全な僕
8/31/2024, 11:09:49 AM