鏡の中の自分
観音開きの三面鏡。がっしりとした木製の鏡台には、笹本が揃えてくれた基礎化粧品や傷薬、私の肌にあうハンドクリームやリップクリームなどが収まっている。引き出しには石蕗から貰った押し花の栞、そして京史郎様からいただいた爪紅、髪飾り。
幼い頃は苦労して登っていた椅子も、今では普通に座ることができる。お母様も、ここでお化粧したりしたのでしょうか。
お母様は私が生まれた時に体を悪くして、そのまま言葉を交わすことなく儚くなってしまった。
そうして生まれた私も体が弱かった。
せめて男児であればと思ったことが一度や2度ではなかったのではないでしょうか。
せめて男児であれば跡を継げたでしょう。
せめて健康であれば繋がりを持てたでしょう。
せめて母だけでも生きていれば未来があったでしょう。
生まれたのが病弱で女の私でなければ何か変わっていた。
何かもなにも、何もかも違っていたでしょう。
しかしお父様に直接聞く機会はもうなくなってしまった。
お父様も既にお母様と同じ場所にいる。
愛妻家であったから、きっと幸せに暮らしていらっしゃると思う。
鏡に映るは小娘1人。荒れた唇にリップクリームを塗って、豆が潰れて硬くなった手に軟膏を塗る。
私が普通の女の子であれば、きっと母親と笑い合いながらこのドレッサーを使っていたでしょう。髪を結ってもらって、何色のリボンが似合うとか、合わせていたのでしょう。
けれど今鏡に映っているのは、暗闇で刀を振り回し、泥と血と土に塗れた子供である。
お母様。きっと私は死ぬまでこの鏡台に、幸せな親子を映す事ができないです。私では。
どうしようもなく胸の内が空っぽに思えて、堪らず三面鏡を畳んだ。最後に見えた鏡の中には、泣きそうな顔の少女が映っていた。
11/3/2024, 1:44:27 PM