今日会った時から思っていた。いつも明るいはずの彼女がなぜだか暗い。
いつもは冗談を言っても軽く受け流してくれるのに、返す言葉が弱々しい。それに目が赤く充血している。…もしかして泣いた後なのか?
そう思いながらも、今日は目的の場所まで案内することになっている。その責務は全うしなければならない。
気づいていないふりをしながらいつも通り話しかけてみる。
でもやっぱり彼女の反応は薄い。
どうにかしたい。今までもずっと隣で見てきた彼女に寄り添えたら。
そう思って、「何かあったのか」とあたかもさりげなく聞いたかのように言う。しかし俺から出た声は緊張しているような、様子をうかがっているような声色になってしまっていた。
「…なんでもないです、」
俯きながら足早になる彼女にじれったくて、
「なんでもないわけねぇだろ。…なあ、俺に言いたくねぇ事でもあんのか?」と彼女の後を追いかけながら問い詰めてしまった。
彼女の足が止まる。
「…ほっといて、ください」
後ろを向いたまま、冷たく言い放った彼女は、夜の喧騒へとまた足早に歩き始めてしまった。
俺はアイツに何も出来なかった。そばにいてやることも、涙を拭うことも。
ただそんなことができなかった俺は、これからもそばにいられるんだろうか。
『涙の理由』
10/10/2023, 2:03:46 PM