烏羽美空朗

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頭がしっかりと覚めた後、まずはカーテンを開ける。まずはそこで目に映る僅かな情報から今日という日や季節を予想して、次にベランダに出て実際の空気を感じるのが、毎朝の習慣だった。
例えば、近くの木に止まった雀の太り具合だったり、深緑に枯れ色が混ざり始めているかだったり、朝日が遠くに見える赤い屋根の上をどこまで昇っているか、など、些細な世界の描写でも季節を感じ取ることができる。
今日もマンションの下に見える、通学路を談笑しながら歩く高校生達が紺色のカーディガンを羽織り始めたことに気づき、衣替えの季節をふんわりと察した。
いつの間にか冷え切っていた腕を擦りながら部屋に戻り、俺も衣替えをしなければ、と押し入れを開ける。

……しかし、適当に入れたタオルの雪崩に、結局同じ物ばっかり選んで殆ど着なかった半袖や薄地のカーテンが行く手を阻む。その奥底に、目的である冬服の詰められた収納ケースの角が僅かに見えたのだが、総てを払い除けてまでそれに手を伸ばす気にはなれなかった。

もう少し寒くなってからでも遅くないだろう。そう自分に言い聞かせ、俺はそっと扉を閉めた。

衣替え

10/22/2022, 12:50:24 PM