鈍い金属音が戦場に響き渡った。1人、また1人と倒れていく中、女は悠然と地を蹴り、戦場を駆けていく。
敵の兵士が女目掛けて斬りかかった。切磋のところで避けた彼女だが、その刃は彼女の軍服を捉えていた。
破れたズボンの裾からのぞく、無機質な鋼鉄の足。
「お前は……日ノ本の絡繰兵士……!」
「……音を断つ」
自ら命じるままに、彼女は驚きに目を見開く敵を切り捨てた。
「人ならざる、化け物め……」
死にゆく命の戯言を振り払うが如く、彼女は刀を降ってその血を振り落とした。
「敵はこれで全部か? 律歌」
「ええ。……そうね」
足元には敵の死体がゴロゴロ転がっている。無感情にそれを避けながら戦場の始末をする。
「敵は随分と驚いていたな。俺たちの存在を知らなかったんだろう」
そう言いながら彼女は無造作に死体の顔を掴み、首元からドッグタグを取り出した。
「うちのやつだ。……持ってくか」
タグには彼の名前と家族の名前が書かれていた。1人の、生きた人間である証。
人間。
『人ならざる、化け物め……』
……化け物、か。敵の兵士の言葉が、律歌の頭の中にはまだ、こびりついている。
「彼は」
壊音が彼女の方へ振り返る。
「人間だったのね。世界と繋がり、生きていた」
滑らかな金属の足を優雅に折り、律歌は味方の兵士の前に跪き、その胸に触れた。
まだほんのりと温もりを感じる。かつては強く鼓動していた彼の命の象徴。
そして彼女は自分の胸に手を当てた。冷たく、何の鼓動も伝えてこない、金属の胸。
「私にも心があれば……化け物とは呼ばれないのかしら」
「……あってもきっと俺たちは化け物だ。同じものでできてないからな」
彼女は無表情のまま立ち上がると、小さく祈りを捧げた。
機械に神はいないけど。何の役にも立たないかもしれないけど。
「律歌? いくぞ。このペースでやってちゃ日が暮れる」
「……わかった」
2体の機械は、静まり返った戦場を再び歩き出した。
3/27/2023, 5:29:34 PM