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いつだって忘れない物語

私達は2人でひとつだった。森に入れば慌ただしく止める声を発したのは彼だった。次第に私達は友達の枠を飛び越えて親友になっていた。
あれは暑い暑い夏の日、私達は村外れにある小屋で出会った。彼はいつもこう言っていた。
「奇跡って本当にあるんだね」
奇跡。その言葉は私は嫌いだった。この世に奇跡があるなら私は生まれなどはしなかった。私は何の為に生まれてきたのか、当日まだ五歳だったがそんなことを考えていた。
「なぁ、お前の名前聞いてなかったな」
セミのぬけがらを見つめながら彼は言った。私は名乗るのが嫌いだった。だから偽名を使って誤魔化すことにした。
「真田一」
真田というのは分からなかったが、一という言葉にはナンバーワンという意味が込められてるらしい。何かで一番になりたかった。当日は生きる意味を見いだせなかったから自己顕示欲を高めたかったのだろう。
「一か、良い名前だな!俺は手塚内侑!よろしくな!」
私が放った嘘に対して彼は随分ストレートに言ってきた。目の奥には真っ直ぐな何かが宿っていた。(私とは違う、彼は本当の事を言っている)

6/29/2024, 3:33:01 AM