紺碧

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布団がもぞ、と動いたと思ったら眠そうに眉をひそめた男が顔を出した。まだ覚醒していないのか、んー、と間延びした声を発している。ほんとうに目覚め悪いなぁ、と考えながら髪を梳いていると目をぱちぱち、と瞬いた後に口が動いた。
「お前って夜みてぇ、だよなぁ……」
「はぁ」
あまり理解出来ずに、今度はこちらが間延びした声を出してしまった。当の本人はそんなこと気にしていないのか眠そうに目を細めている。
「夜って怖ぇ……じゃん?」
うん、と相槌を打ち静かに続きをまつ。
「でも包み込んでくれる優しさ? があるっつうか」
包み込んでくれる優しさ、不意に出た恋人の本音に愛おしさが込み上げてきた。頭を撫でている手に力が入る。
「そしたらあんたは星っぽい、かも」
「……ほし?」
なんでほし?おしえろよ、と騒ぎはじめる男。正直言いたくないが、どうせこの後二度寝して会話の内容なんてまともに覚えていないだろう。えーっと、という前置きをして話し出す。
「眩しくて仕方がなくて、絶対落ちてくるはずがなかったのに……なんでだろうね」
〝星が溢れる〟夜のなかであんたは一番星だったのに、見れるだけで良かったのにまさか降ってきてしまうとは。 そんなん、と直ぐに返事が返ってきた。
「俺が惚れたからに決まってんだろ」
「簡単に言うねぇ……まあ、あんたが言うならそーなんだろな」
んじゃ、俺起きるから、と告げると既に寝息が聞こえてきて笑ってしまった。時計を見ると時刻は5時。あと二時間もすれば起きてくるだろう、早速朝飯の支度をするために背伸びをして気合を入れる。
ふと窓の外を見るとまだ藍色ががっている空。目を細めれば夜に見える、なんて考えながらキッチンへと足を進めた。


「おはよ、やっと起きてきたの?」
休みだからって気抜きすぎじゃね?と言えばにやり、と思いっきり悪い顔をする男。嫌な予感がぴりっと背中を駆け抜ける。
「落ちてきた俺には優しく扱わねぇと戻っちまうぞ?」
「っはー……なんで覚えてんだよ」
やっぱり、深いため息がこぼれた。今日一日はこの話題でいじられそうだ。
「恨むなら俺の記憶力を恨むんだな」
てか今日の飯気合い入ってんな、と目を輝かせた恋人の顔を見てしまえばまあいいか、とどうでも良くなってしまった。なんだかんだ甘いな、俺。そう思いながらいただきます、と手を合わせるのだった。

3/16/2023, 9:44:57 AM