川瀬りん

Open App

『また明日』



また明日。
その言葉の約束が果たされる保障なんてどこにもない。
明日が来る前に命を落とすかもしれないし、明日が来る前に世界自体が消えるかもしれない。
それでも明日を迎えられると当たり前のように思っていて過ごす自分達は、愚か者にすぎない。


「なに、小説の一節みたいなこと言ってんのよ!」
「いや真澄、それは違う。こいつのは厨二病だ。妄想に取り憑かれてる」
「どっちでもいいわよ。小説だって妄想の一種みたいなところあるし」


匠と真澄と俺は幼馴染ではあるが、中学に入って思うことがある。もし幼馴染ではなければ絶対友だちになれなかったということだ。
ギャルに変貌した真澄に、ますますガリ勉博識野郎になった匠。そして冴えない馬鹿な俺。
幼馴染じゃなければ混じり合うことがなかっただろう。


「遼太郎、さっきから本当に小説の一節みたいなこと言うよね……」


ちなみに今まで語ったことは思っていることじゃない。俺が口に出した事だ。
故に真澄がツッコミを入れているのだが……。


「遼太郎は最近そういう言い回しにはまってるんだ。真澄、邪魔をしてやるな」
「匠もちょっと似たような感じだけどね……いつか黒歴史になるよあんた達」
「それも青春だ」


確かに青春だ。
話を戻して「また明日」なんて本来は約束できない言葉だ。それなのに俺達は毎日家に帰る時には「また明日」と呪文のように言い合う。
でももしこの約束が果たされなかったとき。怒ったり、時には泣いたりして「約束したじゃないか」と叫ぶのだろうか。


「そこまで気にしてたら人生ストレスだらけよ」
「確かに真澄の言うとおりだな。それに気にしてたら何も出来やしない」


一理ある話だ。
しかし、約束を破るというのはいささかいい気はしないのではないか。


「あーもう! あんたの話聞いてるとストレスだわ! 私帰るね! ”また明日”!!」
「……」


……。
わざわざ強調して言うこともないだろうに。


「俺も帰る。明後日の試験の勉強の追い込みをしたい」


明後日なんて来るのだろうか。


「来ても来なくても今やるのは来たときの為……それでいいんじゃないか。じゃあ”また明日”」


…………。
匠の言うとおりだ。
明日が来る保障はない。けれど来ない保障もない。

勉強嫌だなぁ……






(創作 2024/05/22)

5/22/2024, 1:21:45 PM