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涙の理由

視界が滲む。
頭が痛い。何も考えられない。
あー…どうして何もしなかったんだろう。

「うわぁ、泣いてる?どうした!?」

突然顔を覗き込まれてドキッとする。
心配そうな彼の顔が目の前にある。

「ーー大丈夫。小説の結末に感動しただけ」

咄嗟に机の中にあった単行本を取り出して見せる。

「ふーん、それそんなに泣けるやつだったか?」
「うるさいなぁ。感じ方は人それぞれでしょ?」
「ま、そうだよな」

納得したのか、笑顔になって前の席に座る彼。

「そういえば、彼女できたんでしょ?良かったね」
「うわ、情報はやっ!ありがとうな」

噂はやっぱり本当なんだ。
また、泣きたくなる。

彼の友達のような立ち位置にいて油断していた。
女子の中でも、彼に一番近いのは自分なんだと思っていた。
何も努力をしなかった。気持ちを伝えなかった。
いつか気づいてくれるかもと期待していた。
今、目の前で照れながらも幸せそうな彼。
涙の理由を知らない彼。

「そんなに幸せそうに話してさ、私がキミのこと好きだったらどうするの?」
「え?あー…、嬉しいと思う」
「なにそれー」

あぁ、やっぱり優しいんだ。
そういうキミが、好きでした。

笑って窓の外に視線を向ける。
やっぱり少し、滲んだ景色。

10/10/2023, 12:11:07 PM