燈火

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【秋風🍂】


「さっむ!」玄関を開けるなり、僕は身震いした。
十月の終わりなのに、もう木枯らしが吹いている。
このバカ寒い中、ゴミ出しに行くなんて嫌すぎる。
だが、今の僕に『行かない』という選択肢はない。

先週、寝過ごしたせいでゴミが溜まっているのだ。
今週もサボると二往復必要になるかもしれない。
せめて、まだ温かかった先週に行けばよかった。
後悔先に立たず。僕は覚悟を決めて家を出た。

重い瓶や嵩張るペットボトルを両手に持って歩く。
近場の集積所には、のろのろ歩いても五分で着いた。
ゴミ出しミッションの最大の敵は気温ではない。
「今日は寒いですねぇ」話しかけてくる人間だ。

「急に寒くなりましたね」笑顔を貼りつけて答える。
クソ、こんな時間に出歩いている人間がいるとは。
夜が明ける前から元気に動くな。大人しく寝てろ。
早く帰りたいのに、体の芯まで冷えるほど捕まった。

帰宅して早々、僕はこたつを引っ張り出した。
当然、暖房は先につけたが即効性がないのが欠点だ。
その点、こたつなら比較的早めに暖を取れる。
リビングで騒がしくしていたら部屋の扉が開いた。

「何してんの?」音に起こされたと君が文句を言う。
「まだこたつは早くない?」僕もそう思う。
そう思うが、明日風邪を引かないために必要なんだ。
布団でぬくぬくしていた君には分からんだろうよ。

君がゴミ出しをすれば、僕はこたつを出さなかった。
「次は叩き起こしてやるからお前が行くか?」
「嫌です、ごめんなさい、ありがとうございました」
こたつに潜り「温かいね」と笑う。調子の良い奴だ。

10/23/2025, 6:50:21 AM