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「過去ってのはいちばん遠いんだぜ」
肩を組んでくる親父はやたらタバコ臭かった。
「そしていちばん近いのは今だ。その次に未来ってとこか」
1滴ものんでいないはずのこの男は酔っぱらっているように見える。それにしても鬱陶しい。
「だからな、ケイ。いちばん遠い過去をどうにかしようとすること、それは素晴らしい気概だ。だがな、それにとらわれちゃあ、いかん」
ぼくに体重をかけ、肩を揺らしてくる。
こっちは勉強中なんですけど。必然的に線がゆがむ。
「未来はこれから決められる。そしてそれは今からどうしていくのかっていうことだぞ。つまり今だ、今」
「だから今、未来のために勉強しているんじゃん」
のしかかってくる親父を押し退ける。それから冷蔵庫から麦茶の入ったペットボトルを取り出した。
「そうか、そりゃあいい。だがな、ケイ。だれかから押し付けられた学びより、自分の心に従うほうがきっといい」
台所から見えた親父のその得意げな顔。
それがぼくにとっての遠い記憶。

7/17/2024, 1:44:11 PM