織川ゑトウ

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『メリークリスマス』

僕には家族がいない。
昔からずっと一人だけで、親戚の養子にはなったけれど毛嫌いされて。
いつかいつかの、あの頃の記憶、クリスマスの苦い思い出。

僕が冷たい水で窓掃除をしている間にガサゴソとプレゼントを開ける音。
メリークリスマスと言い合う血の繋がっていない兄弟達。
暖炉の火花のパチパチ音、クリスマスツリーの影、
シャンパンの淀んだ香り、丸焼き七面鳥の叫び声、

廊下に響く僕の泣き声

汚れた繋ぎ合わせの服はヨレヨレで、木彫りの、足に合わない靴で、
ただ、ただ外のしんしんと降り積もる雪だけが僕の頬を撫でていた。

寂しかったなぁ。あの頃は。

_今はもう、僕はあっち側じゃあないからね。

クリスマス、少年の願い、きらきら輝く深雪は、あのおじいさんを呼び寄せる。

「このプレゼントはどこの国のでしょうか!?」
「フィンランドって書いてあるでしょ。ちゃんと見なよ。あたしらプレゼント妖精だよ?しかも200歳、大ベテランよ?」
「わ、分かってるって!!」

あの日僕は、最高のプレゼントをあの方に貰ったんだ。

「ふぉっふぉっふぉ。そんなに急がなくても出発は明日...」
「「今日ですよサンタ様!!」」
「そうじゃったかの?」

きらきら輝く大きな広間。
サンタ様の和やかな笑い声。
僕たちの慌てる小さな足音。

「そろそろ出発だよ!!ほらサンタ様も早く乗って下さい!!」
「そ、そんなに押し込まんでも...」
「トナカイは!?五匹いる!?新入りは!?」
「いるよ!!赤鼻のトナカイ!!」

真っ白雪にまん丸お月様。

「出発!出発ベル鳴らすよ~!!」

カランカランカラーン....

ふわっとソリが浮き上がる。トナカイも足の雪を振り落とす。
新入りの赤鼻トナカイが「リン」と出発の鈴を鳴らす。

大嫌いだったクリスマスは大大大好きな日へと変わった。

未だに慣れない光景。
サンタ様のソリに乗って、世界を回るこの瞬間のお月様の眩しい光。

「家族、仲間、いなくても、きっと僕たちは一人じゃないですよね」
「...元から一人の子などおらんよ。皆が大切な誰かと、何かと常に寄り添いあっているもんじゃ」
「その人たちが幸福であれるように贈り物をするのが僕たちの使命ですよね」
「うむ。そなたに送ったようにな」

刹那、振り返ったサンタ様の瞳は柔らかく、温かく、お月様の光に照らされ輝いていた。

「メリークリスマス。全世界の子供たちよ」

眠りについた温かなお家の廊下では、妖精の笑い声が聞こえたとか聞こえなかったとか


お題『クリスマスの過ごし方』

メリークリスマスです。




12/25/2023, 1:33:31 PM