忘れられない、いつまでも。
あなたの吐息の熱さ、首に触れる指先、僕を見つめる榛色の瞳。
良い香水の香り、薄暗い部屋、うっすら上がった口角。
燃える暖炉、並んだ本、知らないクラシック。
それから、僕を呼ぶあなたの声。
忘れられない、いつまでも。
君の眉間に寄った皺、安物のローション、黒縁眼鏡。
くしゃくしゃのシャツ、犬の毛、揺れる巻き毛。
美しい瞳、私の腕を掴む手、歪んだ微笑み。
そして、君がついに進化を終えた歓び。
忘れられたなら、どんなに楽だろうか。
侵食するあなたが恐ろしい。
僕は目を閉じて耳を塞いだ。
忘れないように、記憶を抱きしめる。
君に侵食していくことを喜ばしく思う。
私は目を開けて耳を澄ませた。
5/9/2024, 5:21:50 PM