燈火

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【視線の先には】


近所にショッピングモールがあってよかった。
食料品に日用雑貨、服や装飾品をまとめて買える。
飲食店でご飯を食べられるし、喫茶店で休憩もできる。
退屈しないので、彼とのお出かけではよく訪れている。

今日も、ピアスを見たいと言う彼と雑貨屋に入った。
服を見る女性のように、彼もこだわってじっくり選ぶ。
その間、私はそばを離れて気ままに店内を見て回る。
強い興味はないけれど、初めて見るものには心が踊る。

この雑貨屋は二週間ほど前に訪れたばかり。
それでも、新商品がいくつも出ているから楽しめる。
特に目を引くのは、黒猫のマグカップ。
持ち手が尻尾になっているデザインが可愛らしい。

「おまたせ」釘づけになっていると優しく肩を叩かれた。
「何見てたの?」彼が手元を覗き込んで視線を辿る。
「んー、いろいろかな」言いながら手を引いて店を出た。
危なかった。これ以上見ていたら買いたくなる。

今日の私の目的は小説を買うこと。
前に買った一冊を読み終えたので、次の本を選びに来た。
彼は飲み物を買ってくる、と離れていったので今は一人。
目移りして時間がかかるから、ちょうど良いのかも。

会計を済ませて本屋を出ると、彼が戻ってきていた。
「あれ、飲み物は?」彼はリュックの外側に入れるはず。
「飲みたいのがなくてさ」そのくせ中身は膨らんでいる。
増えた荷物の謎は、帰宅後に明らかになった。

「欲しいかなって」それは耳の垂れた犬のマグカップ。
笑ってしまった。思い返せば黒猫の横にいた気がする。
「間違えた?」と不安そう。確かに違うものだけど。
「ううん、ありがとう」彼の買った、これがいい。

7/20/2023, 7:56:52 AM