マコトくん。
それが私の知っている、彼の名前だった。
マコトくんは、私より11歳年上の、夜に出勤する仕事をしているお兄さんだ。
もっとも、それも本当かどうかは分からないけれど、少なくとも仕事については、今からいってくるよ、だとか、今は休憩中だから裏でタバコを吸っている、だとか、夜中に律儀に報告をしてくれていたから、多分本当だと思っている。
今日はお店のイベントでネコ耳のカチューシャをつけないといけないから嫌だ、と嘆いていたこともあった。
病気がちで入退院を繰り返していた母親が亡くなって、わたしの心にぽかんと空いた大きな穴を埋めるため、誰かと話がしたくて何となく始めた掲示板。
私たちは、その掲示板のマコトくんの立てていたスレッドで知り合った。
マコトくんのスレッドには、たくさんの女の人たちが話をしにやってきていた。
“みんなのマコトくん”を一時的に独占するために二人だけで話をする予約を入れていた人や、“みんなのマコトくん”では満足出来ない、と告白をしている人もたくさんいた。
マコトくんの全て包み込むような穏やかな雰囲気にみんな癒されていたし、何ものにも染まらない、どこか浮世離れしているマコトくんに私が惹かれていくのに、そう時間はかからなかった。
【透明な水】
5/22/2023, 7:04:43 AM