隣に居る彼女から仄かに香る金木犀の匂いに、はて、今は秋だったろうかと妙な錯覚を覚える。然し今は香水の匂いすら吹き飛んでしまうかのような強風の五月である。それでもその匂いが分かったのは香水の付けすぎか、はたまたそれ程までにこの距離が近すぎたる所以か。
「匂い、する?」初めて付けてきたの、と彼女がはにかみながら口にしたので俺は素直に頷きを返す。匂いのせいだろうか何処と無く気持ちが浮つくのを誤魔化す様に、彼女の視線を避け遠くの木々を眺めた。
強風に煽られる木々の音は何とも言えない不安感を煽られるが、今の自分には関係無かった。寧ろあの風に身を任せている木々が羨ましくも思えた。己も風に身を任せ楽になりたい、とも。
5/14/2023, 5:57:54 PM