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テーマ【8月、君に会いたい】


アスファルトから照り返す熱気で、背中に汗が伝う。白い半袖シャツが、汗で肌に張りつく感覚は幾つ歳を重ねても不快なままだ。
雲ひとつない空を仰げば、燦々<さんさん>と輝く陽射しが目に染みる。ひと夏の命が懸命にミンミンと鳴いている。

わたしの実家があるのは小さな街だ。
子どもの頃に見慣れた木々や雑草の生い茂った狭い道は見る影もない。小さな用水路や田んぼもなくなり、あの頃ずっと抱いていた、土地の開発が進むことへの寂しさもいつしか消えてしまった。

立ち並ぶ真新しい民家に、美容院、スーパー。
家の前の道路は子どもの頃と様変わりしてしまった。

あの頃はよく、真向かいのマンションに住む双子の兄弟が自転車を漕いでどこかに向かう様をよく見かけた。正月には凧揚げをしている光景も目にしたっけ。

人見知りで内気だったわたしは、彼らに声をかける勇気など無かった。ただ、彼らは見つけた日は無性に嬉しかったのを覚えている。人生が希望に満ち溢れたものであるように感じられたのだ。
彼らはまるで、暗闇に寄り添うちいさなお星さまのように、手の届かない遠い存在のように思えたのだ。


そんな彼らと過ごした思い出を、夏の香りを運ぶ風が、セミの鳴き声が、カーテンを揺らす涼しげな風が思い出させてくれる。

何度も、あの日を思い出した。喜びも後悔も。
毎日、毎月、毎年。思い出す回数は減ってしまったものの、わたしは死ぬまでこの思い出を懐かしむのだろう。

8/1/2025, 10:15:35 PM