うわああ、、コイツ、マジかよ、
嫌な予感はしていたけど、勘弁してもらえないだろうか
ここはどう考えても夜景の見えるレストラン
エレベーターに乗せられてチラ見すると、明らかにドヤ顔をしている
密室の空間に二人きりで
如何にも尋ねて欲しい空気を醸し出すもんだから、
舌打ちを堪えて仕方なく尋ねる
ここ、よく取れたね
待ってました、と言わんばかりに半歩近づき顔を真っ直ぐこちらに向けて笑いながら応える
ここね、実は中々取れないんだよ、半年待ちがざらなんだけど
おい、
こっちはそれを知ってて聞いてるやろうが、初めからここが人気店のニュアンスで問いかけてんだよ
コイツのこういう所作がムカつくんだよ、マジで
偶々、親父のツテでね
ほら、いらんことを言う
お前の努力、皆無じゃねーか
私はしがないオフィスレディ
この度、何の運命の計らいか
金持ちのボンボンに見初められることとなった
見る人から見れば
千載一遇だとか
なんでアンタがとか
言われたけど
じゃあ、お前らこれを我慢できるのかよ、と問いたい
小一時間、問い詰めたい
席に案内された瞬間から、コイツのオーラはさらに膨らんだ
窓側の最優良特等席
店内から県内全ての夜景を網羅できるのは、この二席のみ、といった演出が施され
次から次へと品のある料理が運ばれてくる
とっとと帰りたい私は
味も会話も楽しむことなく、むしゃくしゃと頬ばる
コースは中盤から終盤にかけてラストスパートで駆け抜ける
随時、金持ち特有の自慢話を仕掛けられるが、
はー、とか
ほー、とか
やり過ごす
夜景は確かに綺麗だった
でも固形物を丸のみにさせるようなコイツの振る舞いがどうにも嫌いで仕方がない
いよいよゴールへ辿り着く
次に届くデザートを腹に入れれば
やっとおうちに帰れる
そう思った、矢先であった
バン、と破裂音
店内の照明が落ちた
他の客達のざわつきが聞こえる
状況が掴めない私は
高層のビルの窓から切り取られた夜が眩しくて
一瞬、見とれてしまった
でも、次に反射した光が向かいに座る男の表情を照らして
全てを察する
暗い店内に明るいBGMが流れる
奥から閃光する花火を刺したケーキを持ってシェフ達が現れる
おめでとう、だの言わされながら
キチガイみたいな笑顔で真っ直ぐ私の席に向かってくる
怖くて自然と息が上がり
耐えられず窓の外を見ると
向かいの高層ビルの各階で異常に窓の照明を変化させているのに気がついた
それが私の名前とコイツの名前と
ハートマークで
夜景を描いていると気づいた時、
私はついに、気を失った
『夜景』
9/18/2024, 1:58:17 PM