君が紡ぐ歌
彼奴はよく歌っていた。詩っていたのかもしれない。
殊更人に聞かせようという殊勝な気持ちがあるという感じでもなく、何か、過去の歌を、それも自分の世代よりもずっと古い古歌を、懐かしむようにして口遊んでいたから、それは何か過去と今を繋ぐ架け橋のようなものに見えた。
古いものが無くなることの悲しさと愛おしさ。
愛おしむという行為そのもののように、古い歌を口遊んでいた。
未来よりも過去に親和性のある男だった。
過去の、まだ広い地球、未知の空間、豪放磊落な余裕のある人々、優雅さや美しさがまだシステムや金に汚されてない時代についての歌を歌っていた。
俺にとって彼は古い地球儀のような存在だった。
彼の歌を聴けば古の地球がどんなにゆとりあるものだったか知る事ができた。
この歌を、未来に遺したいと思った。
10/20/2025, 12:26:29 AM