時の雨

Open App

「お客様は神様だろうが!」

耳をつんざいた。雷の様な荒々しい声が。
目の前の人は客というより化け物だ。ヤニ臭いよれたワイシャツ、シミの多い顔、おまけに頭は肌の色が多い。
ただ買いたいゲームの為にバイトを始めただけなのに、どうしてこんな目に遭っているのだろうか。


穏やかな昼下がりが一変し、地獄と化した。
いきなり、中年男性が異物混入を訴えたのだ。ぎゃあぎゃあと捲し立て、こちらが謝罪をしても尚、言葉のナイフが次々と刺さる。
周囲の人が味方などするわけがなく、半ば自暴自棄にあしらい、あの化け物にはなんとか帰っていただいた。

いい加減にして欲しい、お客様は神様なんていつの時代だ。今はカスハラだぞ、あんな態度。第一、神なんているわけがない。
はあ、と大きなため息を吐く。また一つ幸せが逃げていく。この最悪な口当たりを塗り替えるべく、コンビニへと体が進む。


スイーツか、スナックか。はたまたドリンクか。この際何でも良い。目についたものをなんとなく籠に入れてレジへ持って行く。

「全部で823円です。レジ袋は」
「いらないです。」

ぶっきらぼうだったと思う。店員は悪くないのに、当たってしまった。小銭を出す度に胸がチクチク痛む。

「...お客様、疲れていませんか?」
「あ、ああ、まあ...。」
「でしたら、サービスです。」

そういって割引券を小銭やレシートと共に俺の手に乗せる。店員は言った。

「次回以降からご利用できます。待っていますね。」


明日も頑張れるかもしれない。
単純な俺の脳に舞い降りてきた結論。舞い降りて、繰り返している言葉。

神様はいるかもしれない。

そんなただの客の戯言。


2024/07/28 #神様が舞い降りてきて、こう言った

7/28/2024, 5:23:33 AM