-ゆずぽんず-

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人というのは、いつも心のどこかで自分の居場所や本当の価値というものを探しているものだ。

かくいう私もそうである。真に必要とされる場所、求めてくれる存在というのを探している。私には得意なことが、これといって思い浮かばない。趣味も仕事もパッとしないのは、私自身が中途半端に生きてきたからだろう。起業して多くの従業員を雇用し、共に汗を流したこともあった。経験のないことにいつも全力で臨み、全力で楽しんで覚えてきた。だが、私には何も無いように感じている。培ってきたこと、得てきたものなど、いざと言う時にまるで役に立てていないように思えてならないのだ。私は私自身を正しく評価してやれていないのかもしれないが、それを理解していても尚、自分を過小評価してしまう。どれだけ職場で他人から評価され、必要とされていても私の心の中では「私は何もしていないし、役に立っていない。なのに、なぜそんなことを言うのだろう。気を使っているのならやめてくれない」、そう思ってしまうのだ。
先月、とある業者の班長と一週間だけ仕事を共にした。班長は私の仕事や、仕事に対する姿勢や考え方や人間性を評価してくれた。そして、「お前と一緒に仕事がしたい。俺の会社に来てくれ。俺の後継者になって欲しい。お前が好きや」、と声までかけてくれたのだ。連絡先は交換していたので、LINEで中身のない会話をしたりする。今日も、10時頃に電話があったのだが、会話の中身はまるでない。ただ、冗談を言い合ってゲラゲラ笑って二十分ほど話をした。この時も、今の仕事をやめたら来て欲しいと声をかけられた。
私はこの班長が大好きだ。人としても、職人としても、上に立つものとしても。班長はわたしと仕事に対する考え方が非常に良く似ているだけでなく、優しく朗らかで非常にユニークで面白い人だ。仕事中に怒ることはないし、いつもニコニコと笑顔で冗談を口にしては皆を笑わせて雰囲気作りに徹している。仕事の中で危険なことがあれば厳しく注意はするが、それは事故防止ためでしかなくいつもでもネチネチと口撃するようなことはしない。ミスをした時もミスを責めることは無い。一度、班長の部下の新人さんが本来必要である材料とは別の材料を積載してきていた。現場から事務所まで片道30分以上かかるのだが、班長はその誤りを指摘せず、別の若い子(入社半年)を連れて行って必要な材料と交換してくるように指示を出して見送った。一時間後にふたりが戻ってきて作業が開始するはずだったが、載せ替えてきたものがまた違うものだった。直ぐに班長が新人さんを連れて事務所に戻って行った。
夕方、事務所に戻ったときに新人さんの元気がない様子をみてミスについて自責しているのだろうと思った。班長に「ミスについて凹んでる?」と聞いたところ、そうだという。しかし、班長はそのミスについて「もう終わったことや。いつまでもクヨクヨすんな!誰も怒ってないし、お前のことを責めてないやろ?それに、あれは俺のミスでもあんねや。お前がクヨクヨしとったら、俺はどないしたらええねん」と、新人さんに声をかけた。しばらく経って、私が帰るころに様子を見ても落ち込んでいたので再度励ましの言葉をかけて班長と冗談を言い合ったが、やはりどこか自分のミスとして自分を責めているようだった。しかし、その気持ちは私には痛いほどよくわかる。というのも、私は自分のミスをとにかく引きずるからだ。立ち直るのに5分もかからない時もあれば、1日悩むこともある。吹っ切れてしまえばなんてことの無いものだったりするのだが、それがなかなかに出来ないのだ。こういう性格だからこそ、仕事において良くも悪くも強く影響する。
ミスについて「あのミス、ミスというかあれはミスやないんやけどな。そもそも、俺が材料を積ませて確認を怠ったのが悪いし、若い子ら二人に取りに戻らせたのも間違いだった。最初から俺が行けば良かった話やねん。そしたら、あいつも落ち込まんですんだんや」と、肩を落としていた。さらに、「仮にな?仮にやで、誰かがミスをしても絶対に怒らへんし責めたりせぇへんで。そんなことしてもつまらんし、おもろないやん。仕事もやりにくくなるだけやしな」と、続けた。
班長は仕事は楽しく、いつまでもダラダラ、ズルズルせず、やる事をやって早く仕舞って帰るというのが仕事上の考え方だ。人間なんて、集中できる時間は限られている。ならば短期決戦でチャチャッと仕舞いにすればいいし、そのために全力で仕事をすればしんどいのも大変なのも短時間で済む。そして、どうせ仕事をするならメリハリをつけて楽しく面白おかしくしようと言うのがこだわりでもあるという。事実として、私も班長や班員の方を見ていて強く楽しそうな雰囲気を感じた。私も班長と同じ考えを持っているため、仕事は楽しくてなんぼと思っているし、そうなるようにしてきた。しかし、この班長の会社ほどストレスフリーで、皆が生き生きしているところは見たことがなかった。だから私も惚れたのだ。

私自身も、班長の元で楽しく、馬鹿みたいに女歌を言い合いながら仕事をしたいと強く思っている。こう思うのは、目にした様子がとても良かったからだけでは無い。未経験分野であるにもかかわらず、私を評価して、期待してくれているからだ。「お前と仕事がしたい」、「俺を助けて欲しい」という私を必要としてくれる言葉が、私の心に響いたからだ。私は今の職場を楽しいと思っている。分からないことも、いつでもなんでも聞けば暖かく優しく教えてくれる。職人さん達もいい人たちばかりで非常に良い雰囲気だ。

だが、途中にも触れたように、私は自信をもてず過小評価をしてしまう性格だ。いつも心のどこかで、私がいるべき場所はここでは無いどこかなのかもしれないとなやんでいる。そして、これは仕事でなくプライベートな面でも全く同じことが言える。
私が性別問わず、懐いてしまうのは、惚れ込んでしまうのは恋愛感情とは少し違う。私を求めてくれるから、その声に惹かれるのが要因だろう。しかし、これでは単なる風見鶏だ。私には、まだまだ課題が山積しているようだ。

4/16/2023, 11:27:19 AM