(権力者は集団であるとバレたあと)
「過去の自分への手紙?」
「あぁ⋯⋯うん、そう」
やたらと嫌そうな顔で彼女が応じたのをふと思い出した。
権力者として書かなきゃいけないのに、どう考えても過去の自分が今の自分を受け入れそうにない上に、過去の自分に向き合うのもいやだ、なんて話していたっけ。
僕も書いてみようかなとペンを手に取り書き始めた。
「過去の僕、具体的には神様みたいだった僕へ
元気でしょうか、そうですね、元気ですね。
あのころの僕ほど元気でなかった時期はなかったと僕は思います。
過去の自分に敬語なんて使わなくていいのかもしれないけど、未来の僕という者はきみと比べるとあまりにも地位が下だから敬語にしてみました。
いいですよね。きみの生活。
何も不自由なくて、みんなから褒められて。
有頂天になったきみは人間界に降り立った後にとんでもないことをしでかします。未来の僕はその成れの果てを知っているけど、きみに対処の術なんて教えてはあげません。
なんで、と過去の僕は言うでしょうが、絶対に教えてはあげません。
僕は今の生活が気に入っています。あの時よりも何十倍も何百倍も。
だから教えてあげません。きみは有頂天のまま人間界に行って、そして『間違えてください』。それがただしい未来への道のりです。
過去の僕は神様になりたかっただろうし、それが無理でも天使でありたかったことでしょう。
でも今が一番幸せなので許してください。
それでは」
5/24/2024, 4:45:19 PM