潮鮫

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逃避行なんて僕らしくもない。

霞む視界と肩の温かな重みに脳を揺らしながら
そう思った。



世界の果てまで一緒にいられると思った。

救えない終わりも、君なら全部美しかった。

悲劇的な恋も、残酷で醜い嫉妬心も、
君には何1つ無いように見えた。

僕の神様だった。









君の1番になりたかった。


タッチダウンの差とか、魅力的な口説き文句とか、
そういうものじゃないと思う。

きっと必然的に僕は選ばれなくって、
顔も性格も知らない奴に向かって伸びた赤い糸は
切っても切れないほど硬い。

運命とはそういうものなんだろう。






それでも、それでも。


この歪み切った心が君に悟られなくて良かった。


君が君じゃなくならなくてよかった。

君以外のものにならなくてよかった。

純真な心のまま死にゆく、
その美しい姿を傍で見れてとても良かった。



車窓から見える夕焼けは海月のように
たくさんの色を含んでいて、君の肌に虹色を映した。

ぐらぐらして不安定に揺れる君の首を
そっと触って、僕の方に傾ける。



もう2度と離さないように。
凍えても。
燃え尽きても。
彷徨っても。
溶けても。


また同じ棺で、咲き誇る沈丁花を
胸いっぱいに抱えながらみずみずしい香りと
君の瞳に心躍らせ、見つめ合えるように。

君の笑顔にどれほど救われたか、
愛が伝わるように丁寧に言葉を紡げるように。

そうして君と、骨になるまで傍にいられるように。

6/7/2024, 12:03:01 PM