昨日の夜、何かすごく"赤いもの"を見た気がする。
アホになるほど飲んでしまったから、それが現実なのかはたまた酒が作り出した空想なのかわからない。
友人はおらず、1人。以前から興味を惹かれていた海鮮居酒屋のカウンター席で酒を飲んでいたことまでは覚えている。
だが、店を出て何をしたのかが全く記憶にない。
そこで見たはずなのだ。
幸いなことに今日は休みなので、頭痛薬と胃薬を飲んで、真相に迫る探偵ごっこにでも興じてみよう。
家をでると、オレンジの光と少しの寒さが肌を刺激した。
もう少し厚着をしても良かったが、この刺激が二日酔いを覚ますのにちょうど良い塩梅のものだったため、僕は上着を取りに帰りはしなかった。
そして昨日と同じ道を辿る。
店は最寄り駅に新しくできたもので、自宅からは20分程の位置にあった。
歩いている間に、"赤"について思考をめぐらす。
昨日、食べたマグロ、飲んだ赤ワイン。
隣に座っていたカップルの女のカバン。リップ。
そして、血の色。
海の色は青いのに、海鮮居酒屋は赤いものばかりだな。そう感じるとともになぜ酒で記憶をとばしていながらも話もしなかった女のカバンの色を覚えていたのかという疑問がうかんだ。
「もし、その"赤"が本当に事件性のあるものだとしたら、これは案外、芝居ではなく本当に探偵になるのかもしれないぞ。」等と映画の1幕のようにセリフをはく。
この何かに巻き込まれる不安感と高揚感を表現する言葉は...そうだな、海とかけて「心がざわめく」がいい。
そんなことを考えながら歩いていると、その"赤"は唐突に正体を表した。
赤い、赤い、1尾のエビが地面に横たわっていた。
居酒屋付近のコインパーキングの前。
呆気にとられながらも、そのくだらなさに笑ってしまった。
所詮、現実なんてこんなものよ。
だが、ここまでくだらないと、かえって心は晴れる。
そう踵を返し、帰路に着いた。
その時は考えもしなかったのだ。
居酒屋の近くのパーキングにエビがある意味。女のカバンとリップの色を覚えていた理由。
二日後、少し離れた山でカップルの男の遺体が見つかった。死亡時刻はあの晩。パーキングの監視カメラにはエビの写真をとるカップルとそれを見ている僕、そして謎の黒い男の姿が写っていた。
まだ、女は行方不明らしい。
3/16/2025, 1:36:54 AM