「シュウくんてば、なんか最近、おっきくなったんじゃない?」
「ガッチリっていうか、むっちり……」
「ヤダヤダ校内一のイケメンなのに、デブっちゃヤダ! イケメン台無し!」
もぐもぐ。中休みの時間も惜しんでオヤツを食べる。友達が声を潜めて彼に耳打ち。
「なぁシュウ、周りの女子の怨念がこえーんだけど」
「気にしない、僕いま忙しんで」
食べるのに。
友達は呆れと諦めが入り混じった顔でかぶりを振った。
「隣のクラスの山下レンだろう。付き合うために太っるって。一体全体どーなとんねん」
「ほっといてよ、好きなんだからしょーがないじゃん」
もぐもぐ。
「……なんで好きなの、あの子のこと。昔からなんだろ」
「んー、それはあ」
まだ幼稚園のころのことだけど、僕ははっきりと覚えている。
園のジャングルジムで遊んでいた僕は、てっぺんから落っこちた。派手に。
きゃあああ!せんせー、シュウくんが落ちた!頭から血、出てる! 死んじゃうううう!
一緒に遊んでいた園児たちが悲鳴を上げた。たらり。目の前に赤い液体が垂れてきた。くらっ。目の前が暗くなって、僕は意識を失いかけた。
その時、憤然と叫んだのがレンちやんだった。
「死なせないもん! ぜったい、シュウちゃんはあたしが守る!」
先生たちでさえうろたえて、手出し出来ないでいた僕を、ガッと担ぎ上げてレンちゃんは走った。多分病院に駆け込もうとして。
ぶるぶる肩が震えていたのを、レンちゃんの背中におぶわれた僕は今でもよく覚えてるんだーー
「それ以来、僕はレンちゃん一筋さ」
もぐもぐ。
「……イケメンだね、彼女」
「だろう? あげないよ。レンちゃんは僕のものだからね!」
「いや、別に手ェ出さんけどさ」
「僕が太ったら付き合ってくれるんだ、ようやく。頑張るしかないよ」
「ーーわかった、俺、協力するわ。お前の純愛に打たれた。お供えするわ、今日から」
これ食えよとリュックからメロンパンを取り出す。
「うわー、ありがとう」
それから口づてで、シュウの恋の話が伝わり、日に日に彼の元へ差し入れが増えるようになった。
そして、彼の体重もーー
続く #秋恋2
#ジャングルジム
9/23/2024, 10:59:56 AM