【刹那】
目を離した隙に、隣の君が何かに押されたようによろめいて、ホームから落ちる。
とっさに手を伸ばしても、届かない。
嫌だ、そんな、こんな事があっていいのか。
ホームへ滑り込んできた車体とぶつかって、君が、爆ぜる――――。
……
…………
「……どうしたの?」
気づいたら、隣の君が心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
生きている。確かに息をしている。
あの刹那は……幻?
怖くなって、僕は君の手を握った。君は驚いた顔をする。次の瞬間――
ドンッ
誰かが君にぶつかって、君がよろめいた。
ひやりと背筋に冷たいものが走る。
僕はとっさに握る手に力を込めて、君を引き寄せる。
腕の中に君を閉じ込めて、無事を確認する。
ぶつかった相手は気まずそうな顔をして何処かへ行ってしまった。
君は目を白黒させて、事態が飲み込めていない様子でいる。
「よかった」
心の底から声が漏れた。
「……うう、びっくりした。ありがとう」
やっと状況を把握した君は、はにかんで笑った。
その様子に、愛しさが込み上げる。
僕はそのまま君をギュッと抱きしめた。
照れた君が何事か言っているが、今は構っていられない。
ああ、君はここにいる。
絶望の刹那は、訪れなかったのだ。
4/29/2026, 8:56:33 AM