美佐野

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(吹き抜ける風)(二次創作)

 吹き抜ける風は心地よく、若葉の香りを含んで清々しい。空を見上げれば抜けるような青空で、頭を悩ませる千々の物事が静かに霧散していくようだ。ジプソは、しかし、大きく大きく息を吐いた。ボスたるカラスバを探しに街を回っていた矢先、見つけたのはデウロだ。エムゼット団の一員にして、ダンサーを目指す少女である。
「なんやジプソ、こんなところにおったんか」
 それはこちらのセリフだ、と言いたくなる言葉と一緒に現れたのは、探していたはずのカラスバである。肩にじたばたと暴れる女性を背負っている。
「オレは今からこいつにありがた~いお説教をせなあかん。ということで、そのお嬢ちゃんは頼んだで!」
「そのうち起きると思うんで、私からも、よろしくお願いしまーす」
 カラスバの荷物改めセイカにまでそう言われ、ジプソはデウロの警護をすることになったのだ。そう、デウロは、この過ごしやすいミアレの外で、ぐっすりと熟睡していた。
 真昼間で、公園。そうそう危ないことは起きない、と思いたいが、残念ながらここは人出の少ないスポットでもある。本来ならば起こすべきだろうが、デウロはあまりにも幸せそうな寝顔を見せている。そういえば、彼女が外で無防備にも寝こけているのは珍しい。というより、初めてではないだろうか。
「…………」
 結局、ジプソは彼女の隣にどっかと腰を下ろした。
(カラスバ様の気持ちがちょっと判る気がする……)
 放っておけない、庇護欲のようなもの。このような気持ちを他者に抱いたのは初めてに近い。ジプソは、何となく、デウロの顔の前でひらひらと手を振ってみる。はたから見れば滑稽な図だろうなと思う。
 と、何も知らないデウロが、眠ったまま、へにゃり、と笑った。
「!!」
 不意打ちだ。ジプソは思わず飛びのいてしまい、そんな自分が可笑しくて吹き出した。水もしくはきゅうりに驚く猫のようだった。

11/20/2025, 7:59:44 AM