→短編・侵略 (2024.8.8 改稿)
王子は誰もいなくなった宮殿で、愕然と膝から崩れ落ちた。
「最初から決まってたなんて……」
砂漠に覆われた彼の国が、不思議な緑色の目をしたビジネスマンから買い付けた小さな植物の苗を植えたのは半年ほど前だ。
力強い繁殖力で植物は株を増やし続け、国は緑に覆われた。
緑化の成功に国中が沸き立ったのも束の間、植物は手当たり次第に増殖し、遂には国民に取り付き始めた。植物たちは人間を操って移動した。またたく間に彼らの生活圏は拡大していった。
植物たちは、ジャングルよりも濃ゆく深く緑を成し、王子の国を飲み込んだ。
大多数の国民は逃げ出したが、王族だけは国の長として最後まで王宮に残った。王も王妃も親族もみんな植物に食われていった。残ったのは王子ただ一人だった。
その彼の生命も長くはないだろう。
彼の周囲を生暖かい緑の香りが漂い始めた。王子の首元にスルスルとツタが這い寄る。逃げることも抗うこともなく、彼は無念を眉根に結びキツく目を閉じた。
王子の呟きの意味を知る「人は」誰もいない。
テーマ; 最初から決まってた
8/7/2024, 3:35:07 PM