頭では分かっている、つもりだった。
貴方が僕たちを養うために今までよりも一層身を粉にして働いてくれていることは。
ぽっかり空いた大きな穴の、心が追いついていなかった。
卓袱台にいつまで経っても残っている貴方の分の夜ご飯とか、玄関から優しいただいまの声が聞こえないとか。
だから、貴方が帰ってくるのをいつまでも布団の中で待ち続けることにしたのだ。
既に寝静まっているであろう、僕たちを起こさないように、やがて細心の注意を払って玄関の扉が開く音がする。
一人で夜ご飯をさっさと片付け、とっくに冷めた風呂に浸かる貴方。
不意に襖の開く音。いけない、少しうとうとしていたようだ。
布団はいつも貴方の分も僕が敷いているから、何も疑うことなくすぐに潜り込む貴方。
そんな間を置かずに静かな寝息が隣から聞こえてくる。
今からが僕の、僕だけの心の隙間を埋める時間がきた。
貴方を起こさないよう、ゆっくりと布団から這い出る。
「……、」
やおら上に跨り、小さな声で名前を呼ぶ。当然起きない。
顔を近付け、唇と唇を重ねる。それもほんの一瞬。
後は顔中至る所に唇をくっつけては離し、くっつけては離す。
起きて欲しいような、それでいて絶対に眠り続けていてほしいような。二律背反な感情が胸の中を渦巻く。
今はまだこの関係で良い。気付かれなくて構わない。
少しずつ少しずつ、貴方のあずかり知らぬ所でひっそり肌と肌の触れ合いを深めていこう。
それが僕なりの寂しさの埋め方。これに名前がつくのかなんてまだ知らない先の話。
12/19/2024, 10:24:10 PM