「1人ですか?」
女の瞳が私を映したが、
どうも目が合っている気がせず
居心地の悪さを覚えた
「1人ですよォ」
返ってきた予想通りの甘ったるい声に
思わず微笑むと
「お姉さんもひとりィ?」
独りだよ
そう答えると、
彼女の不自然な色の瞳が悪戯に輝き始めた気がした
ー
「帰っちゃうのォ?」
「すごく可愛かった、どうもありがとうね」
ベッドの上で一糸まとわぬ姿の彼女の
寂しげな視線をくぐり抜けて
玄関を出ると
いつもの日常の上に
青々とした空が広がっていた
眩しくて一瞬目がくらむ
思わずUターンしたくなったが
もう不自然極まりないグレーのカラコンと
目を合わせたくなかったから
諦めて
光の下を歩くことにした
しかし
こういう真っ当な美しさを魅せられると
私はいつも思い出したくないことを
思い出してしまう
私が喉から手が出るほど欲してやまなかった
あの人のこと
毎秒毎秒、この世でいちばん尊くて清らかな
あの雰囲気は今どこにあるのだろう
混じり気のない
あの美しい瞳は私を選んではくれなかった
清々しい空に反し、
鬱々たる気持ちを抱えながら
沈み込みそうなほどに重く暗い1歩を踏みしめた
1/16/2024, 1:50:28 PM