『相合傘』
いつもと変わらない放課後、いつもと同じ玄関先で、空を見上げ「ついてないな」と君が呟く。
シトシトと降り続ける雨の中に走り出そうとする彼女の手を掴み、僕は傘を差し出した。
「傘。よかったら使って」
一言二言しか交わした事がない。名前しか知らないような関係の僕が、突然こんな事を言い出したら困るだろうか。嫌がるだろうか。少しの不安はあったが、彼女の表情を見て杞憂に過ぎない事が分かった。
「本当? いいの?」
無邪気な様子でこちらを見る瞳が、子犬のようで、頭を撫でたい衝動に駆られる。
「大丈夫、親が迎えに来るんだ」
それは嘘だったが、濡れて帰って欲しくなかった。
夕雨を見つめる横顔が、とても綺麗に思えてしまったから……。
「ありがとう。優しいんだね」
そう言って傘を受け取ると、彼女は雨の中を少し足早に歩いていった。
この日見送った背中は、今は隣に並んで肩を温めてくれている。
6/19/2024, 4:35:02 PM