【お題:とりとめのない話】
とりとめのない話をしようか。
そう、末の弟に話しかけると、蹲っていた彼は微かに顔を上げ、その光の灯らない瞳を向けてくる。
一応聞く意思はある。ただ、言葉を返す気はない。その心を閉ざしたまま、否、閉ざさなねばいけないままだ。
それは、私自信重々理解している。今の私では、両親の意向に逆らうことはできない、ただこうやって、話しかけてやることしかできないのだ。
「今日は、とても良い天気だったよ。あぁそうだ、桜花にも春が来たんだ、桜が咲いたものだから街が活気づいている」
なるべく季節の話題を出すことで、時間を知らせる。弟は生まれてからもう何年も、巡る季節を見てきていない。
想像できるように、事細かに言葉にしてみてはいるが、さて、どこまで理解出来ているだろうか。
「……すずにぃは、なんで私なんかに構うのですか」
「え?」
「利益などありませんでしょう? 私は忌み子なんですから」
ぷいっと、壁際へと彼の目線が動く。そこには、積み上がった本の山。
この弟は怖いくらいに頭が良い。両親に黙って、文字を教え、彼に様々な本を与えてみたが、その全てを読破し、言葉の意味を理解した上で、こうして聞いてきている。
忌み子。それは、我が如月家のみに出てくる者。
如月家は現在、桜花國、筆頭華族と呼ばれているが、かつては、中頭華族であった。元々筆頭であった、黒影家が、当主、嫡男共に不在となり、没落したため、筆頭となった歴史がある。
中頭の中で、どの家が筆頭となるかで揉めた末、黒影家最後の当主、柊の妻を出した四宮家と、忌み子と呼ばれる、力のある子供を排出する我が如月家のどちらかとなった。
その中で産まれたのが末の弟、華扇である。華扇の右肩から手首までは、黒文様で覆われており、その文様は魔力を吸収すると言われている。
言われているというのは、忌み子が産まれたのが約千年ぶりであり、資料がないためだ。
両親はそんな華扇を怖がりながらも利用することにした。忌み子がいる、この家が筆頭に相応しいのだと。
結果的に筆頭とはなったが、華扇は地下室に閉じ込められている。一度決まってしまえば覆せないのだからと、表に出されていないのだ。
「……利益かぁ、まぁあれだ、私がこの家を継いだら、華扇が味方になるように、かな?」
「……うそつき」
「ははっ、嘘も方便だ。それに嘘はついちゃいないさ、お前が敵に回ったら、兄ちゃん悲しいからな」
私が継ぐならば、この弟には幸せになってもらいたい。この、桜花という狭い国ではなく、レークスロワという、広大な大地の元で。
それまで私は、この地下室でとりとめのない話をする。
いつか来る、弟の大切な日々のために。
ーあとがきー
今回のお題はとりとめのない話。
というわけで、桜花國の話です。
華族の階級は、筆頭、中頭、下頭と別れており、筆頭一家、中頭三家、下頭八家の全十二家で構成されております。
黒影家がいた頃は、中頭四家の十三家で構成されておりました。
此度の語り部の名は、鈴華。だから、すずにぃです。如月家嫡男となります。
黒影家が花の名前であるように、如月家は、名前に華が付く決まりがあります。そういう歴史です。
今までの短編とは、時代が大分異なりまして、十数年後という時間軸です。
華扇&鈴華も様々なエピソードを持ったキャラクターなので、これから語れたらなぁと思います。
それでは、またどこかで。
エルルカ
12/17/2024, 7:34:07 PM