安達 リョウ

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些細なことでも(大人の謝り方)


きっかけはほんの少しの食い違い、勘違い。
あとは間違いに素直に聞く耳を持たず、喧嘩腰からのすれ違い。といったところか。

彼女が毎日欠かさず作ってくれる弁当のおかずのひとつが、俺の苦手な食材でできたものだったのが事の発端だった。
何気に、入っていたから食べなかったと口にしたら、一度は謝った彼女だったが腑に落ちなかったのだろう。突っかかり気味に、好き嫌いばかりで悩むわたしの身にもなってほしい、そこは汲んで少しでも食べてくれればよかったのにと不満が噴出。
そこからは何で俺が、何でわたしがの応酬戦に終始し、今朝は言葉どころか視界にすら入らないように互いに別々で会社に出勤する事態にまで発展―――とまあ、犬も食わない有様に陥っていた。

いい歳した大人の、大人げない口喧嘩。
くだらないと一蹴するのは簡単だったが、相手のいる身では一蹴したところで何も解決はしない。

「………まあ俺が悪い、よな」

―――毎日毎日、嫌な顔ひとつせずに早起きして用意してくれる彼女。
無理するな、お前も仕事があるんだからと言い含めても
『選り好みして食べるあなたにお弁当以外食べさせたら、栄養が偏るのは目に見えてるから』。
………いやその通り。ぐうの音も出ませんて。

何気に立ち寄った、会社帰りの道沿いにある一際目を引く洒落た洋菓子専門店。
ここのケーキが甘過ぎず、くどすぎずの良い按配で最高に美味しい!と彼女に好評価を得ているのだ。
てことで、機嫌直しに一役買って頂きましょう。

箱を持ち、帰る道すがら俺は彼女にどう声をかけるか考える。
“お弁当、悪気はなかったんだ”?
“これからは何でも食べるから”?
………。普通に、昨日はごめん、でいいか。

「「あ」」

逆方向の角から現れた、会社帰りの彼女とばったり鉢合わせする。
気まずそうにする、彼女の手には俺の好物の―――。

………俺も彼女同様、きまり悪く手にしていた箱を差し出してみせる。
微妙な間の後、俺達はどちらともなく堪えきれず吹き出すと、二人自然に肩を並べて帰路を歩き始めた。


END.

9/4/2024, 6:50:24 AM