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「君は旅行で何が1番楽しみ?」
「星を見ることかな」

2年前から決まっていた旅行
行く前日まで行きたくなかった旅行
折角閉じ込めた感情が全部出てきてしまいそうで本当に怖くて行きたくなかった

空港を降りてからぶわっと蘭の花の香りが身を包んだ。
この香りはどこの空港でもある訳じゃない、この場所だけの特別な香り
高い湿度と温度と蘭の香りが「ようこそ南国へ」と迎え入れてくれるのを昔はずっと待っていた
そんな日々があったのが懐かしかった。

今まで来た時は私は助手席に座っていれば良かったけれど運転しなければいけない。
あの時スピードが出てるのが少し怖かったのに気づけば自分もいつもよりスピードをだしてしまう
乗用車だから、というのもあるし警察が本当に少ないからというのも安心材料になって法定速度遵守の私は何処かに行ってしまった。

一緒に行ったところ、一緒に行きたいと思ってたところ、新しく見つけたところ、色んなところに行った
「みて!」
自分が初めて見た景色で感動した所を一緒に来てる友達に教える。
きっともう別の子と来てるんだろうなと思うこともあったけれど昔よりもマイナス思考になってしんどくなることは無くなった。
寧ろ自分が想定していたよりも全くしんどくなくて
ただ普通に旅行を楽しんでいる自分がいた。

一緒に行く子に「今回の旅行で楽しみなことは?」と聞かれた時、何も思いつかなくて「星」と答えた。
よく星を見に行って写真にとって送ってくれるから編集して送り返していた。
見たこともない満天の星空を見に行きたかった。
1人でも大丈夫なんだって、私にも見れるんだってことを証明したかった
けれどやっぱりみれなかった
東京よりも確かに星は綺麗だったけれど、生憎の天気
それに真っ暗、次来る時は本当に独りだから、独りでここに来ようと思っていたけれど無理だと思った

ホテルに帰ってきてから、1人になりたくて車に残った私は電話をかけた
相手は底のない優しさを私にくれる人。
一緒にいて楽しくて、それでいて時間があっという間に過ぎて、幸せを感じることができる人。
落ち着くからついつい甘えすぎてしまうし、過去の事が軽いトラウマになってるから度々不安になってしまって迷惑をかなりかけているにも関わらず受け入れてくれる
「旅行どう?楽しい?」
「楽しいよ笑すっごくいい所なの、一緒にいつか行きたいな。ご飯が美味しくてお金も安いところが多くてね、どこに行っても自然豊かで綺麗な海が見えるの。3月だからなのかもしれないけど風が強いから東京より暑さもしんどくないし、寒くもないし花粉もない!日本で一番好きなところなんだ」
そう言った瞬間全部頭の中に記憶が降ってきた
この話したことがある気がすると思ったのがだめだった
気づいたら涙が止まらなくなっていた
この独特な香りの空気感も、エレベーターの中の少しカビ臭さも全部感じたことがあるんだ
あの時は本当に幸せで楽しかった
けれど帰りの飛行機の時間が近づいているのが嫌だった
助手席に座ると起きてようと思うのに寝ちゃうんだ
隣に居てくれるだけで安心することができて、運転が上手だから大きく車内が揺れることがなくて
ブランケットとクッション貸してくれるなんてもうそんなの寝ていいよって言ってくれてるようなものじゃんか
クッションをぎゅってするのが好きなの言ったっけとか考えてたな
今回借りた車は乗用車だった、鍵を持ってるとドアにあるボタンを押せば鍵を閉めたりすることが出来るの
それが楽しくて押させてって言ってたな

「君はそこが大好きなんだね」
「でも嫌いにならなきゃいけないの、だからもう来ないよって、一生来ないから最後に楽しもうって思って此処に予定通り来ることを決めたの」
「どうして嫌いにならないといけないの?」
「ここにいたら遠距離になっちゃうから」
「僕が障害になっちゃってるんだね。遠距離でも大丈夫だよ、やりたいことをやった方がいい。待てるよ」
「そう言って居なくなっちゃうんだよ笑私遠距離恋愛しかしたこと無かったから笑知ってるよ、みんな違うって言っときながら最終的にひとりにするんだよ笑」
「色々と思う所があったんだね。でも僕は君にずっと隣にいさせて欲しいって想うよ」
「…東京まで遠いね。本当に遠い。早く帰りたい、ううん帰りたくないの、ずっとここにいたい。会いたい」
東京は本州の中でもどこにでもアクセスしやすい所にある。ディズニーだってユニバだってバス1本で行けてしまうし、北海道にでも飛行機で1時間。九州だって新幹線で3時間位で行けてしまう
けどここは、とても孤独だった
他県に行くにはフェリーか飛行機、結構な時間がかかる。高いところがあまりないから夜景も楽しめないし、人がそもそも少ないから夕方にはお店閉まってしまうからご飯を食べるところがない。
車がないと生きていけないし
住んでる環境の違いを実感してもっと止まらなくなってしまって
気を紛らわそうと周りの景色を見ると、隣の車のフロントにタコの人形が大事そうに置いてあるのが目に入った

「この子は置いてくね、次また来た時に持って帰るから預かってね笑あ〜!もう!そんな扱いしないの!仲良くしてあげて!」
三人兄弟の一人はまだ元気にしてるのだろうか
もう海に流されてしまったかな


電話をする時、何時も車の中からだった。
隣を見ても後ろを見ても誰も乗ってない車の中で1人
何でって、遠距離はしんどいものじゃないよって
だって何時でも会おうと思えば会えるって思ってたのに
あまりにもそれは難しいことだと実感した
「そりゃそうだよね笑近くにいい子がいたらそっちに行っちゃうよ」
自分で笑いながら話して悲しくなった
独りが怖いんだ、ひとりになるのがこわいんだね
ずっと会いたかった人に2ヶ月ぶりにやっと会えたと思ってもたったの4日間だけ
会えない期間は時間が止まってるんじゃないかって錯覚するくらい流れが遅いのに会ってる間はあっという間で
気がつけばまたねの時間になってしまってる
次会う約束もした、楽しみなことも沢山作った
バイトのシフトも詰め込んだから大丈夫なのに、
また夜話せばいいのにやっぱり会ってたい
隣をふと見て笑ってくれる人が居ないのがどうしようもなく、おかしくなってしまうくらいに辛かった

「遠距離無理になっちゃった」
そう言って勝手に別れを告げておいて直ぐに近いところで新しいパートナーを作った彼の気持ちなんて考えないようにしていたのに感情移入してしまった
やっと分かることが出来たよ、その方が幸せだから選んだんだね笑
辛い思いしなくていいもんね、会いたい時に会えるね
しんどい時そばにいてあげられるしそばに居てくるね
楽しい時間たくさん共有できるね、
写真送らなくても一緒の景色が見えるね
「〜したい」って思ったらすぐに実行できるもんね

「大丈夫?落ち着いて、帰ってきたら会おうね」
「うん」
「そろそろお部屋に帰らないとお友達が心配しちゃう」
「うん」
「また何かあったら何時でもかけてね、今度旅行に行かなきゃ行けない時は一緒に行こう、ついて行くよ」
「うん、あのね、」
「どうしたの?」
「遠距離、難しいね笑無理だ笑」
そう言って私は電話を切った。

3/22/2023, 10:28:43 PM