「そうだ。正月だから、『初日の出』とか『日の出』とかは来るわな」
すっかり忘れてた。某所在住物書きは投稿の刻限をチラリチラリ確認しながら、しかし己の納得できる物語がサッパリ浮かばないので、頭をガリガリ葛藤に掻いていた。
物書きが主に連載風投稿の舞台としているのは東京だ。勿論山の上やビルの高層階、海見える公園等々、日の出の見える場所は無くもないが、
ぶっちゃけ、東京で、日の出そのものを見ることなど日常的にあるだろうか。
「……あと、ぶっちゃけ、クリスマス前に捻った足腰のせいで、今年日の出見に行ってねぇし」
ため息ひとつ。そもそも今年、元旦早朝の天気はどうであったか。
――――――
とうとう仕事が始まった。
ぶっちゃけ今年の三ヶ日、体は休んだ筈なのに、心が全然休めてない。唯一の癒やしは昨晩、職場の先輩が「ブリとサーモンが破格の値段だったから」って、おいしい鍋をシェアしてくれたことくらい。
あとアレだ。非公式だけど、私のアパートの近くのカフェの、お正月限定プチケーキセットだ。
個人経営で、具体的に「どの作品の誰と誰」って明記してない、でも実は◯◯を意識してますっていう、概念アクリルチャームがランダムで貰えるやつだ。
一回注文すれば後はアクリルチャーム代だけ払って、お一人様最大5回まで追加で引けるって、フードロスも減るし、この業界じゃ革命だと思うの。
「それで?」
「目当ての概念チャームが最後5回目で出たのが嬉しくて、神社行って初日の出風の画像撮ってきた」
「初日の出『風』?」
「実は夕暮れ。そもそも太陽が見えないから色と影だけ。ほら、先輩のアパートの近くの、あの稲荷神社」
「日の出が撮りたいなら、あそこに行けば良いだろう。海の見える例の」
「冬は朝が苦手でござる」
「はぁ」
昼休憩の休憩室、いつものテーブル。
お弁当広げてコーヒー持ってきて、誰が電源入れたか知らないテレビから流れてくるニュースをBGMに、私と先輩はランチを食べてた。
先輩は昨日の鍋の残りを、私はお弁当の準備が間に合わなかったから近所のコンビニのサンドイッチを。
それぞれ食べながら、別に何でもない話をしてる。
「先輩の故郷って、日の出見える?」
「は?」
「東京、昼でもないと、太陽見えないじゃん。先輩の帰省にくっついてったら、概念チャームと一緒に日の出フォト、撮れるかなって」
「朝は苦手、ではなかったのか」
「起こしてくれれば大丈夫」
画像の話、日の出とチャームの話、地震の募金箱の話、今日職場に来たお客さんとクレーマーの話。
色々話をして、ランチ片付けて、午後の仕事へ。
先輩が昨日アパートの近くのスーパーで、募金箱の中に諭吉さんが2枚入ってたって言ってたから、
仕事の終わりにちょっと寄って、見てきて、私もちょっとだけ入れてこようと思った。
1/4/2024, 8:31:53 AM