高校1年生が終わり、春休みを友達と一緒に過ごしていたときだ。
「やっぱりここの喫茶店の雰囲気が1番好きだな〜、
はーちゃんは?」
「…そのはーちゃんって呼び方まじでやめてって…(笑)
ん〜、私は八幡(はちまん)前駅の喫茶店かなー、まあここも好きだけどね〜…」
私は泡だらけになったメロンクリームソーダを
飲みながら店内を見渡していた。
すると友達の純恋(すみれ)が月のように丸いパンケーキに、メープルシロップをかけながらこう言った。
「花菜(はな)ほんとそこの喫茶店好きだよねぇ、
飽きたりしないの?」
「しないかな〜、あの店のマスターさんが超優しくてさ、居心地良くてつい行っちゃうんだよね(笑)」
「えー!?なにそのアニメとかに出てきそうな設定!!ずるいってー!」
そんな会話をしていると、純恋がパンケーキを
一口サイズに切りながらこう言った。
「え、てかさ、忽那湊(くつな みなと)って知ってる?」「なにそのアニメに居そうな名前…」
「おぉパクるな?(笑)1組にいる男子なんだけどさ、
なんかめっちゃ嘘つきまくってるらしいよ」
「え、それってかなり''危険''じゃない?」
この世界は嘘を付くと自分に関係している''何か''が
消える。自分の持っている''物''が消える場合もあれば、''記憶''が消える場合もある。
完全にランダムなため、次に何が消えるかわからない。
「そうなんだよね、本人は全然呑気な感じらしいけど」
「えぇ…変な人と同じクラスになりたくないなぁ…」
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この世に春が来たことを知らせるかのような満開の
桜が公園に咲き、4月になった。
新しい担任の先生が来た。
鼓膜が破れそうなくらいの声量で
「これから1年間、よろしくお願いしますねぇ〜!!」
と言った。
(担任ガチャ、大外れ。なんだこの今にも犯罪を
犯しそうな顔面の先生は。てかこの先生見たことないんだけど、まじで誰だよ…)
その日は純恋と一緒に帰った。
「はぁ…純恋とクラス離れたのまじでしんどいわ…」
「え、そんなに?(笑)でも1組と3組って離れてるか…」
「私も1組になりたかった…てか聞いて、この前純恋が言ってた、くつなんとか…みなと?って人と一緒の
クラスになっちゃったし、担任ガチャも大外れだった…」
すると純恋は目をまん丸にさせ、
「えぇ!?忽那と一緒のクラスになったの!?
…ご愁傷さまです。」
「ふざけんな不謹慎野郎」
家に帰り、部屋の窓から見える桜の木を眺めていた。
「私のキラキラJKライフもここで終わりか…」
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「はーちゃんおはよ〜、」
「おはよー…待って今はーちゃんって言っ」
「そうそう昨日課題やるの忘れててさぁ〜!!
今日私徹夜なんだよねー!!」
「私の声をかき消すなよ…ご愁傷さまです。」
「…なんか言った?」
「ん?」
学校に着き、2年生の階についた。
「はぁ、早く教室行こ〜…あっ、私3組なのか…」
「そうじゃん、じゃあ頑張れよ〜」
「うぃ〜…」
席に着くと廊下からくしゃみをする音が聞こえてきた。「音でかすぎない…?誰…?」
3組の教室のドアには175cmほどの男がいた。
本当になぜなのか分からないが、あの男が「忽那 湊」であることは何故か一発でわかった。
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その日の帰り、スマホをいじりながら帰っているとSNSのフォローが来ていた。
「Minato._.731」というIDの人からだった。
「絶対あのくしゃみ男じゃん…まぁいいか…」
そう思い、フォローを返した。
1週間後、クラスの女子と男子が少し揉め合い、
色々あった結果、席替えをすることになった。
「このクラス本当に大丈夫か…?」
でも1番前の席はずっとストレスだったからちょうどいい、指定された席に移動し、隣の人に声をかける。
「やっほ!」
「誰…?」
「え、SNSでフォロー返した人、花菜って名前なんだけど…」
「んー、?あ〜…確かそんな人フォローしたっけな…」
(きっとまた嘘を付いて記憶が消されたんだろう、
早く席替えしたい…したばっかりだけど…)
次の日の朝、学校に着き、席に座るとあのくしゃみ男が来た。
「ねえねえ、昨日のストーリーに載せてたあの飲み物
どこで飲めんの?」
「えっ?あぁ、あれは八幡前駅の喫茶店だよ」
(なんだこの明らかに「アホ丸出しです!!」みたいな
質問の仕方は。まずはおはようとか言えよ…)
「そうなん?俺喫茶店とか行ったことないから行ってみてえなぁ〜…あぁ誰か一緒に行ってくれないかな〜…」
「…一緒に行けってこと?」
「そうだけど」
「そうだけどじゃないよ…」
(でも今日マスターさんに誕生日プレゼント渡したかったし、ちょうどいいから行くか…)
「今日だけね」
「えっ!まじー!?じゃあ決まりな!」
————————————————————————放課後になり、湊とかいう変な男と行きつけの喫茶店に行くことになってしまった。
あのとき断ればよかったと後悔していると、声をかけられた。
「花菜!早く行こーぜ!」
「あぁ、うん」
学校から15分ほど歩くとお店が見えてきた。
中に入るとマスターさんが笑顔で出迎えてくれた。
「あの!これお誕生日プレゼントです、よかったらどうぞ!」
「えぇ、そんなことしなくてもいいのに…
でも嬉しいから受け取るね!(笑)ありがとうねぇ」
喜んでくれてよかった。
「もしよかったら今日はこのカウンターで過ごすのはどう?」
「いいんですか!じゃあお言葉に甘えて…!」
私はいつも通りメロンクリームソーダを飲み、
湊くんは綺麗な青色のメロンクリームソーダを注文した。
「なんかあの男の人すげぇ優しそうだな…」
「あ、やっぱりわかる?」
「言葉に出来ないけど、なんか、すげぇ…」
(湊くんの場合は言葉に出来ないんじゃなくて、
単純に言葉を忘れただけでは…?)
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意外なことに時間はあっという間にすぎた。
日が暮れそうになったころ、湊くんはコンビニで
買った安いアイスを食べながらこう言った。
「俺さ、友達と遊んだことないんだよね」
「珍しすぎない?」
「昔から嘘ついてばっかだったから友達居なくて」
「あー、そっか…なんで嘘なんか付くの?
メリットよりもデメリットの方が多くない?」
湊くんは私の言葉を無視し、アイスを食べ続けた。
(なんなんだこいつは…)
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季節は7月になったばかりの頃。
あの日から週に1回は湊と遊ぶようになった。
このことを純恋に話したら「頭でも打った?」と
聞かれたがスルーした。
一緒に行きつけの喫茶店に行ったり、ときには水族館に行ったり。
正直、私は胸を張って友達と言える人は片手で数えられるくらいだ。
自分と似たような人、湊に勝手に親近感を感じていた。
新しい友達が増えた感覚が久しぶりでつい嬉しくなってしまい、色んなことを一緒に話し合った。
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7月もついに最終日になっていた。
明日から夏休みが始まる。
公園のベンチに座り、2人で喋っているときのことだ。
「ねぇ湊」
「どうした?」
「この前水族館行ったじゃん?」
「あー、うん」
「また一緒に行こ」
「ん…?おう…」
(もう、言ってもいいかな。どうせ湊もまた嘘を付き続けると思うし。どうせ記憶も消えるだろうし。)
「湊」
「んー?」
「好きだよ」
湊の表情が固まる。
「へっ、?」
「だから、好きって言ってんの。
その…私と付き合ってよ。」
彼は顔を赤くして、数秒後に頷いた。
「えっ…ほんとに!?」
「俺も…花菜のことが好きだよ」
どうしよう、今までないくらいに嬉しい。
その後はもう、嬉しすぎて何を話したかは正直覚えていない。
「じゃあ、花菜。また明日。」
「あっ、!待って!」
「まだなんかあった?」
「その…湊がずっと嘘を付き続けてる理由が知りたくて…」
「あ〜… みんなの記憶に残りたくてさ。
ずっとみんなに俺のことを覚えててほしくて。
だからわざとあんなに嘘付いたりしてた。」
「え…?」
「ほら、やっぱりみんな嘘ついたりしないじゃん?
俺だけじゃん、こんなに嘘付いたりするのって。
だから印象的にみんなの記憶に残るかなって…」
「まぁ、確かに… 最初に湊のことを聞いたときは本当に変な人だと思ったよ」
「酷くね?(笑)俺は最初花菜のこと見たとき可愛いって思ったよ?」
「うるさ…」
「あははっ(笑)なんで横向いてんの、照れてる?(笑)
花菜が照れてるのちょっときもい…(笑)」
「はぁー!?ほんとにうるさいな〜!(笑)…え……?」
目の前を見ると湊の姿はどこにもなかった。
下を見ると、乱暴に脱ぎ捨てられたかのように
くしゃくしゃになっている制服と青いイルカの
キーホルダーがついているリュックだけが残っていた。
テーマ「君に会いたくて」
題名「勿忘草に再会を」
1/19/2026, 2:03:25 PM