名前の無い音

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『神様のプレゼント』


(バカみたいだ)

たった30分前までは
幸せな時間を過ごしていたのに
今は 絶望的な気持ちで
電車に揺られている

※ ※ ※

今日は 彼の誕生日
二人で前から行きたかったお店を予約して
楽しくディナー

手を繋いで 彼の家に帰ってくると

「……なに これ?」

可愛らしく ラッピングされた箱が
これまた 可愛らしい袋に入って
彼の部屋のドアノブにかかっていた

「あ……れ?か、母さん来たかな?」

明らかな動揺
あわてて その袋を取り 自分の鞄に隠した

私は ボンヤリと 何が起こりそうなのかを
頭の中で 組み立てながら
くるりと 方向転換をした

「待って 待って 違うんだって」

彼の声は き こ え な い
私はただ 今来た道を 駅に向かった

「聞いて? ねぇ 違うんだって 説明するから」

駅までの間 彼は 私に何か話しかけていた
でも 彼の声は き こ え な い

駅の改札に着いたとき

「あ!待ってて良かったぁ!
さっきお家に行ったんだよ~!
気づいてくれたぁ~?」

どこからか 甘ったるい声が近寄ってきた

「なんでっ……」

彼の なんとも言えない声が
ようやく聞こえた

「ずいぶん 若いお母さんね」

にっこり笑いかけたあと
私は 『関係者ではありません』という顔で
改札を抜けた

(バカみたいだ)

※ ※ ※

最寄駅に着くと
ポツポツと雨が降り始めていた

改札を出て
駅の階段を降りたところで
雨の様子を見る

止みそうもないかな

………………

あれ?
なんだろ?
なんで ここに居るんだろう?
あれ?
私は どうしたんだろう?

ふと 冷静になった瞬間
体が ガタガタっと震えた
なんとも言えない感覚

笑いたい 泣きたい 怒りたい
どうしようもない感情が 全身を駆け巡る

私は 雨の中にそっと入った
髪も服も靴も 次第に濡れていく

「あぁ もう 嫌になっちゃうな」

口に出して言ってみる
自然と 涙が溢れ出す

バカみたいだ バカみたいだ

どんどん溢れる涙を
雨が隠してくれる

神様が最後にくれたプレゼント
『気が済むまで 泣けばいいよ』
そう 言ってくれているみたいだ

バカみたいだ バカみたいだ
あんなヤツのために
泣いてる自分が 恥ずかしい

バカみたいだ バカみたいだ
あんなヤツを
大切に思ってしまった自分が
苦しいよ……

バカみたいだ バカみたいだ

泣きながら 歩く 帰り道

あぁ もっと もっと 濡れて帰ろう
どんなに 泣いたって
雨が優しく 包んでくれるから
きっと 誰にも 気づかれないから
大丈夫だよ

神様のプレゼントは
少しつめたくて
私の ぐちゃぐちゃな感情を
そっと包み込んでくれた

ありがとう 神様
お願いがあるんだけど 次はさ
あの人に雷をプレゼントしてくれない?








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本当は雨の日に関係する
ちょっと違う話を書いていたんですが……

書き始めたら 思ったよりも
とてつもなく長くなってしまって

またいつか
違う時に 書こうかなと思っています




5/26/2022, 7:03:30 AM