遠くの空へ
深い夜空の中に、綺麗な星が浮かんでいる。この場所から遠くの空へと思いをはせる。
ああ、何て美しいのだろう。
星になって空の一部になってしまいそう。このまま意識ごと、吸い込まれるような気がする。
私は目の前に広がる天球を見てため息をついた。空に浮かぶ満点の空が、星々が時間を共に天球をめぐり、時間の流れを肌で感じた。
瞬く星座に、遠く空へ手を伸ばそうとしたが、やめた。
天球に響く女神のような声に身をゆだねる。このまま闇に吸い込まれたい。何度もまばたきをしながら、目を開いて必死に空を見つめ続ける。
女神の声と共に、銀河が、天の川が、星座が、星たちが天球を巡る。その動きを眺めながら、この流れゆく時にそのまま吸い込まれていきそうになっていく。
どうしてこの天球を見つめていると、意識がそのまま溶けて行ってしまいそうになるのだろう。
「…………この銀河は……」
何度も繰り返される、女神の様な声に耳を傾けながら、私のまぶたは重さに逆らえず、そのまま意識は遠のいていった。
「君の寝息が隣で聞こえてたよ」
プラネタリウムを出ていく人々の中に混じって、彼は歩きながら私の方をそっと見た。天文学が大好きな彼。私は彼の趣味についていこうとしたけれど、場所を聞いてイヤな予感はした。
やっぱりこうなった。
「ごめんなさい……どうしてもあの声を聴いていると眠くなって……」
「大丈夫だよ。君以外に結構寝てる人いたから」
彼のフォローが少々いたたまれない。
「ありがとう……あの」私は顔を真っ赤にしながら、彼の方を向いた。
「こんな私でもいい?」
「君だから、どこへ一緒に出来るだけで嬉しいよ」彼は耳の端を染めながらそう言うと、私の手を取って、望遠鏡の方へ一緒に歩いて行った。
少なくとも、天文台で居眠りはしないだろうと安心していたのだけど。
今日の流星群を見ようと、長蛇の列ができているという事は予測できなかった。彼はまったく気にしてなかったが。
正直、立ちっぱなしでパンプス履いていた足には少々きつかった。流星群はきれいなのだろうけど、それ以上に早く座ることだけを考えていた。
8/16/2025, 1:41:02 PM