雫。それは水道から流れ落ちた水ではなく、空からこぼれ落ちた雨でもない。たった1人。今まで一緒にいた彼との日々を惜しんだ私から溢れた大粒の涙だった。
彼はもうこの場所にはいなかった。先輩の下駄箱には他の誰かの靴が。先輩が使っていた机には他の誰かが。先輩との楽しい日々は…時と記憶が塗りつぶしていく。もうこの苦痛に耐えられやしない。先輩の匂いに先輩の笑顔。全てが懐かしい。全てが切なく儚い。今でもきっと先輩の心の片隅にいたいと願ってしまう私と先輩のことを諦めたくないけど諦めたい私がいる。それは矛盾してしまうのだろうか。今でもなお先輩のことを考えてしまうというのに、先輩は私の事なんか忘れたに決まっている。
先輩の名前をつけたぬいぐるみ。先輩の生き生きとしている綺麗な目にそっくりで明日への予行練習を毎日毎日繰り返していた。
「先輩。忘れないでよぉ」
雫。私の涙はそんなに綺麗なものじゃないのに、ぬいぐるみを伝った涙はキラキラと輝いていた。
4/22/2023, 7:38:55 AM