ストック

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私の趣味はランニングだ。晴れの日も雨の日も毎日欠かさず続けている。
ランニングコースの途中には墓地がある。人気のない場所だが、心を無にして走るのにはうってつけの場所だ。

ある雨の日のこと。
私は墓地に男性がいることに気がついた。彼は傘もささずに墓石の前に佇んでいる。
こんな時間に、傘もささないでお墓参り?
少し不思議に思いながらも、私は墓地の前を通りすぎていった。

次の日は昨日とはうってかわった快晴だった。
私はまた墓地の前を通る。今日はあの男性の姿はなかった。

それからしばらく、彼の姿を見ることはなかった。
私が再び彼を見かけたのは、また雨の降る日のことだった。
やはり彼は傘もささずに、墓石の前で佇んでいた。

気になった私は、墓地に入っていくと男性のもとへ向かう。
彼はずぶ濡れになりながらも墓石の前に立っていた。
40代くらいだろうか。体は引き締まっており、体格もいい。

「大丈夫ですか?」
私は声をかけた。
彼は少し驚いたようだったが「お気遣いありがとうございます」と丁寧に答えてくれた。
「以前の雨の日もお見かけしたので気になってしまって…。どうして雨の日にだけいらしてるんですか?」
初対面の人に対していきなり込み入った質問をしてしまったが、彼はやはり答えてくれた。
「ここには私の相棒が眠っているんです。雨の日に来れば、泣いても雨のせいだと自分を納得させられるんです」
それを聞いて、私はここが軍の人の墓地であることを思い出した。彼もきっと軍人なんだろう。
「悲しいなら、泣いてもいいんじゃないでしょうか」
私の言葉に彼は小さく首を横に振る。
「命を落としたのは相棒だけではありません。私の部下も敵兵も同じです。死を悼んで泣くなら、全員のために泣かなければなりません。しかし、彼は私にとってかけがえのない存在でした。だから『これは涙ではなく、雨だ』と言える雨の日にだけ会いにきているのです」
私はそれ以上、何もかける言葉が見つからなかった。

それからしばらく経った雨の日、私は彼の姿が見当たらないことに気づいた。
墓地へ入っていくと、彼がいつも立っていた墓石の近くに真新しい墓石が増えていることに気づいた。
私は雨の中、その墓石に向かって手を合わせた。

8/27/2023, 1:48:08 PM