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▶117.「記録」「cute!」(抱き合わせ更新です)
116.「さぁ冒険だ」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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イレフスト陣営、元対フランタ技術局内
仮説会議室(元食堂)にて

「なぁヤンよ」
「はい、課長」

「シルバーブロンドの奴は、第三隊に捕まるかのぅ」
「並の人間なら捕まるでしょうね」

「ここまで来るかのぅ」
「さぁ、どうでしょうね…って、来て欲しいんですか?」

「じゃって、この記録たちを見たらのぅ…血が騒ぐじゃろ?」
「否定はしませんけどね、期待しない方がいいですよ」

「むぅ…ちと第二隊らにお願いしてくるかの」
「相変わらず、言い出したら頑固ですね。無理言っちゃ駄目ですよ」


粘り強い交渉の末、地下通路は、元技術局側の出入口のみ警護することになった。
ホルツもそこに待機する予定だ。
曰く「話のわかるやつで良かったわい」ということらしいが、

「ったく…我々軍より前に出るなんて、どうなっても知りませんよ?」
「どうせ老い先短いジジイじゃ、ほっとけ。必要なのは対話じゃよ」
「どうせと言うなら長生きしてください」
「言われんでもするわい」


その報告が来たのは早馬が伝えてきた予想より1日早い、2日後のことだった。

「班長、かなり早い足音が聞こえてきました。しかし訓練された軍人のものではありません」

「来よったな。お前さん方、くれぐれも下がっておれよ」
「分かりました。しかし、いざという時は出ますのでご承知おきください」
「お主も頑固じゃの」
「あなたに言われたくないですね」

「班長、お早く」
「課長、早く行ってください」

地下に降りて所定の位置につく。

ホルツはシルバーブロンドが通路から出てきた時に目につきやすい場所へ、
第二隊5班は二手に分かれて、ホルツのフォローと、シルバーブロンドの背後に回れる位置につき息を潜めて待つ。

次第に足音が大きく、耳を澄ませなくても聞こえてくるようになってきた。

「…シ、もう少しだ」

まだこちらに気づいていないらしい。
独り言なのか潜めた声ながら警戒心は感じられない。

完全に姿を現したそいつは、想像していたより若かったが、情報通りの金とも銀とも見える髪色で、3秒目を離したら忘れてしまうような、特徴の少ない顔をしていた。
それよりも気になったのは、その顔になんの表情も乗っていないことだ。まるで人形のような全くの無表情。
しかし、わしと目が合った瞬間。
それは人間らしい、訝しげな表情に取って代わった。

「わしはホルツ。ここの管理人といったところじゃな。お主は、こんな所まで何しに来たんじゃ?」
「私は、‪✕‬‪✕‬‪✕‬。旅をしている者だ。ここには…友を助ける手段を探しに来た」

「ふむ、友か。友人とは良いものじゃ。人生を豊かにしてくれる」
「ああ…」
「しかし、ここに人間の助けになるようなものはない。友というのはナナホシというメカのことじゃな?」
「……そうだ。何故知っている?」
観念したのか、あっさりと認めた。しかし、警戒心まで解いたわけではなさそうだ。表情は緩んだが、心情がとても読み取りにくくなった。

「言うたじゃろ、管理人だからじゃ。わしは軍の奴らと違う。悪いようにはせん、こっちにおいで」
無造作に背を向け、スタスタ歩き出す。少しすると奴、‪✕‬‪✕‬‪✕‬もついてきた。
案外素直なやつじゃ。かわいいのぅ。じーさんはこういうとき、「cute!」と方言ぶちかましておったな。

自身が緊張しないよう、くだらない事を考えながら仮説会議室へ向かう。
さらに後ろの方からぞろぞろと5班のライラたちがついてきた。

「なぜ今日は多くの人間がいる?前は誰もいなかったが」
「前に来たという、そのせいに決まっているじゃろう。おかげで大忙しじゃ」
「む…すまない」

なんじゃなんじゃ。本当に国の上層部を騒がせている重要人物なのか?
調子が狂うの。

「まぁ座れ」
家具の類いは全て朽ちておった。そのため軍が野外に本部を置くときに使うテーブルセットを借り受けている。

「で、じゃ。さっそくナナホシというメカを見せてくれんか。実物を見たことがないんじゃ」
「ナナホシ、いいか?」
「ウン…優シクネ」

‪✕‬‪✕‬‪✕‬が突き出した手に乗っていたのは、
虫と考えれば大きいが、メカと考えれば極小の虫型機械であった。

「触れてもよいか?」
試しに手を伸ばしてみると、
ヨタヨタと脚を動かしてわしの手に乗ってきた。かなり冷たい。

「アッタカイ…」
「随分弱っておるの」
「ここに来る前に軍を振り払ってきた。その時に無理させてしまったのだ」

ちんまりと手に収まる、小さく弱ったメカ。
「…cute!」
「なんだ?」
しまった。じーさんの気持ちが分かってしまった。
「あぁいや、こいつを助けたいのじゃな?」
「そうだ」

「ちょうど、ここに記録が…おっと」
「モウチョット、アッタメテ」
「仕方ないのぅ」

その時は初めて触れた本物のメカのかわいさに、忘れていたのだ。
‪✕‬‪✕‬‪✕‬が追われていたことを。

バタバタとした大人数の足音に気づいた時には、もう遅かった。
「あっ、ちょっと困ります!ミナト第三隊長!」
「退けっ…!見つけたぞ!もう逃がさん!!」

血気迫る隊長の姿に、‪✕‬‪✕‬‪✕‬の様子が変わった。
サッとナナホシをわしの手から取り上げ懐に押し込んだかと思うと、わしの首に腕を回して拘束した。いつの間に出したのか、ナイフまで突きつけられている。
だが、痛くはない。

「すまない、少し付き合ってくれ」
しかも小声で頼んできた。

(おいおい、‪✕‬‪✕‬‪✕‬よ)
仕方ないので、苦しげに見えるようにしかめっ面をしておいた。

「いいのか?この老人が、どうなっても」
「お前が降伏すればいい話だ!」

ほんの少しだけナイフが触れる。
ヒヤリとした感触は、それが本物であることを伝えてくる。

「本当に?」
「隊長、ここはどうか」
「…くっ!」

じりじりと‪✕‬‪✕‬‪✕‬が移動を始める。ナイフが少し遠くなったので、わしも歩みを合わせていく。方向からしてメインルームに向かうようだ。

「ナナホシ、すまないが」
「ウン、イイヨ。マズハ、ココカラニゲヨウ」
「…どうするんじゃ」
隊長と向かい合っているため、わしは口を動かさないように尋ねた。
「ここを破壊する」
「なっ…」
「崩壊には3日の猶予があるから心配ない」

3日。それだけあれば資料室にあるものを全て持ち出せる。
優先順位をどうするか考えているうちに、メインコントローラーの前まで来た。
ボタンを押す音がした。‪✕‬‪✕‬‪✕‬は後ろ手にやっているので何のボタンを押したかまでは分からない。
『自壊装置の開始ボタンが押されました。自壊開始まで後3
「さあ、私はボタンを押した!ここは崩れる!逃げなければ死んでしまうぞ!」
‪✕‬‪✕‬‪✕‬が電子音声に被せるようにして大声を出す。
なるほど、猶予がないと思わせて退かせる算段か。

「この野郎…!」
隊長はいきり立っているが、他の面々は逃げ腰だ。フランタ国に通じる道ならすぐそこにあるが、昔とはいえ敵国であった国に取り残されるのは軍人には恐怖があるだろう。第三隊が後ろに退いていく。

「すまなかった」
謝罪の言葉を口にして✕‬‪✕‬‪✕‬は、わしを解放した。
それだけだと第三隊が勢いづいてしまうので、そっちに向かってよろめく演技をしておく。

そして✕‬‪✕‬‪✕‬は、フランタ国に繋がる通路に入っていった。

「あっちは異国、深追いは無理だ」
「では一度戻って…」
がやがやと協議しているのを無視して、わしは‪全部巻き込むことにした。

「イレフスト国を愛してやまない諸君!気をつけ!敬礼!」
昔のように腹から声を出せば、隊長以下全員が反応した。

「この対フランタ技術局は、崩壊の危機に面している!よって、全ての記録資料を持ち出し帰還する!復唱!」
「全ての記録資料を持ち出し帰還します!」
「よし、かかれ!」
我に返った隊長が苦虫を噛み潰したような顔をしていたのが気持ち良かった。


「こちらこそすまなかった、‪✕‬‪✕‬‪✕‬」

言っていた通りに3日後、元対フランタ技術局は崩壊した。

2/28/2025, 9:24:38 AM