太陽(プール日和)
燦々と輝く太陽の下、庭に昔ながらのまーるいプールを広げて蛇口にホースを繋ぎ、水を注ぐ。
照りつける日差しがやたら眩しくて、俺は強めに目を細めた。
「にいに、水足りない」
「足りない」
―――夏休み。
年の離れた双子の姉妹の面倒を押し付けられて、俺はうんざりしながらハイハイと返事をする。
「「にいに、てきとーすぎ」」
「うるせーな。ハモんなよ」
蛇口をさらに一捻りして、水遊びに精を出す彼女らに言葉少なく渋々従ってやる。
その名の如く奴隷と成り下がった俺は、あからさまに盛大な溜息を吐いた。
くっそ何で高校生が幼稚園児の相手しなきゃなんねーんだよ。
こっちだってな、勉強やら(せんけど)デートやら(相手?知らん)で忙しいんだっての。
高校生の夏休み台無しにすんな、バカにすんな。
俺は押し付けた親に心の中で悪態をつく。
「にいに遊んで」
「遊んで」
「は? 遊んでんだろが、充分」
プールの内を溜めていたホースを取り出し、俺は双子の頭に真上から水をかけてやる。
きゃはきゃはと二人の笑う声に俺も何となく口角を上げながら、………まあこういうのもたまにはいいか、と自分を何だかんだで納得させた。
「あれ、今日はお世話係か?」
「ん?」
顔を上げると、視線の先には近所に住む同級生の幼馴染み。
「おう。仕方無しにな」
「そっか。それは邪魔したなあ」
―――意味深に残念がる様子に、俺は訝しんで首を捻る。
何だ、誘いに来たのか?
そう問うと、奴はにやりと笑って爆弾を落とした。
「2組の連中にプール誘われてさ。お前もどうか、って。―――あの子も来るらしいぜ」
………。“あの子”。
「!!!」
俺は思わず持っていたホースを取り落として、あたふたする。そして一も二もなく頷くと、すかさず行く!とその場で喚いた。
「「にいに!?」」
………4つの視線が突き刺さる。
後ろめたい気持ちはあったが、しかしこのチャンス、逃すわけにはいかない。
並んで責め立てる二人の幼い肩を抱き、俺は真剣な面持ちでそこに屈んだ。
「土産は駄菓子でどうだ?」
「「イヤ」」
「………アイス。パピコ? ピノ?」
「アイスでいいけど、」
「けど、」
「「ビエネッタ」」
………。そこはレディボーデンとかハーゲンダッツだろ普通………。
「わかった。約束な!」
待ってろと幼馴染みに目線だけで伝えて、俺は家に入り大急ぎで支度する。
「ねーねー」
「ん? なに?」
「にいにの好きなひとってかわいい?」
4つの目がキラキラと彼を射抜く。
参ったな、イマドキの幼稚園児はマセてるなあと。
一向に弱まらない日光の下、幼馴染みは言葉を濁しつつ、彼が出て来るのを心待ちにしていた。
END.
8/7/2024, 6:53:45 AM