noname

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ざあざあ降りしきる雨を見てから、家に傘を置いてきたことを思い出した。ついてない。バスを使えばあまり濡れずに済むだろうか。いや、今日は財布も置いてきたんだ。とことんついてない。
そんなふうに立ち尽くす私に、良ければ一緒に帰ろうかと言ってくれたのは誰よりも優しい君で。私はその言葉に甘えることにした。

「今日の数学のテストどうだった?」
「全然だめだった。知らん式出てきたもん。」
「ほんと?そりゃ大変だ。」

ざあざあ。降りしきる雨は周りの音をかき消して、君と私が切り取られたような気分になる。普段よりこぶし1つ分近くなった距離が妙にくすぐったい。

「…あ、そういえば、家ここら辺って言ってたっけ?道こっちであってる?」
「………あぁ、いやこっちだよ。もう少し先で曲がるんだ。」
「そっか。意外と遠いんだね。せっかくだから送ってくよ。今日は予定もないし。」
「めっちゃ助かる。ほんとありがとう。」

本当はここで曲がるし、その道だと随分な遠回りだ。優しい君、気づいてくれるなよ。
カバンをギュッと引き寄せる。中の折り畳み傘があたってすこし痛かった。

6/19/2024, 12:32:33 PM