『静寂に包まれた部屋』
目が覚めると、そこは白い部屋だった。
机があり、ベッドがあり、ちゃんと外に出られるドアがある。
壁と床が真っ白なだけで、内装も家具も、何の変哲もないないものだった。
____音がない。その点以外は、普通の部屋だ。
歩いても、壁を叩いても、叫んでも、音が出ない。その部屋全体が、音というものを切り取って隔絶された空間だった。
ここがどこかはわからなかったが、なにせ鍵がかかっていないので、普通にドアから外に出られた。
開けた先は家の近くの麦畑で、振り返るとそこにはすでに何もない。
ほんの1分にも満たない、不思議な部屋の体験だった。
だがあの静寂の部屋を出ても、辺りの麦畑に人はいない。
弱い風がさわさわと麦穂を揺らしているが、聴覚への刺激はまったくこない。
____昔、おじい様から聞いた話。
「静寂の部屋」は、静寂に包まれた場所にのみ、なんの予兆もなく現れる。
何も起こらないが、人の心を安らげる……不思議な部屋。
たしかにそこは、本当に何も起こらなかった。
9/29/2024, 11:27:58 AM